平成8年度 研究紀要 Vol.26 個人研究 -067/175page
小学生におけるディベート学習の可能性
−課題の発見と克服のために−
長期研究員 吉 田 美智生
研究の要旨 最近注目を集めている指導方法の一つにディベート学習がある。しかし,小学校における実践例はあまり多くない。発達段階などを考えて躊躇しているものと考えられるが,その一方で,一度授業に取り入れたいと考えている教師も少なくない。 そこで,本研究では,小学生によるディベート学習の有効性と具体的な配慮事項について,検証授業を通して明らかにしようとした。その結果,次のようなことが明らかになった。 1. 小学校高学年では,テーマに対する立場を機械的に決めたり,勝敗をっけたりする普通のゲーム形式のディベートができ,それによってより広い見方や考え方ができるようになる。 2. ディベート学習を行う際,テーマ設定をしっかり行えば,児童の活動は教師が考える望ましい方向へ向かい,より実際的な知識が身に付く。 3. しっかりした学級経営が行われていれば,児童は議論をすることに対し抵抗感はなく,また,議論の後でも,児童は友達との人間関係を損なうとは考えていない。 I 研究の趣旨
現在,児童生徒の主体的な学習が展開される授業が求められている。授業を組み立てる際,教師は,児童生徒が積極的に学習対象とかかわり,自らの課題を解決するような活動を設定するようにしなければならない。ディベート学習は,これを無理なく行える指導法であるように思われる。なぜなら,児童生徒は,テーマが与えられると,ディベート・マッチに向けて自分たちの立場の主張を理論立てて証明しようとして,進んで資料収集や立論を行おうとするからである。
本県において,中学校や高等学校のディベート学習の実践例は増加しているにもかかわらず,小学校における実践例は少ない。下のグラフは,小学校教諭82名に対するアンケート結果である。
このような,小学校におけるディベート学習に対する実態は,
(1)小学生の発達段階にディベート学習がどの程度適合するのか
(2)小学生が行うディベート学習では具体的にどのような配慮が必要なのか
(3)小学生が行うディベート学習において,知識・理解がどの程度身に付くのか
が十分明らかになっていないことによるのではないかと考えられる。
そこで本研究では,小学生でも楽しくできるディベート学習の工夫と,その際の具体的な配慮事項を授業実践とその後の児童のアンケートを通して明らかにしようとした。