平成8年度 研究紀要 Vol.26 個人研究 -130/175page
III 研究の実際
〈地層の学習を支援するマルチメディア教材(福島県版)の開発〉
小学校理科 福 島 県 の 地 層 佐 藤 哲 1 開発の意図
(1)直接体験への関心・意欲を高めるマルチメディア教材
文字や音,静止画や動画などをコンピュータ画面に取り入れたいわゆるマルチメディア教材には,実際に見ることができない世界をシミュレートしてくれるものもあるが,自分がやれることでもコンピュータが代わって正確無比にやってくれ,しかも美しい色と楽しい効果音,そして動きは本物に近いといった。ものもある。
居ながらにして様々な世界を疑似体験させてくれるソフトウェアを見るにつけて危倶されることは,「直接体験はどうなっていくのか」ということである。特に小学校段階,とりわけ理科という教科の中においては,マルチメディア教材が発展すればするはど直接体験をより重要視していかなければならないのではないだろうか。
画面を見ることによって自分も「行ってみたい」「もっと詳しく見てみたい」「さわってみたい」という子供たちの直接体験への関心・意欲をより高めていくようなマルチメディア教材が,今求められているのではないかと考える。
(2)地層の学習単元の魅力に迫るために
小学校6年の地層の学習単元は,星の学習単元とともに「時間・空間概念の育成」を図ることが期待できる魅力ある単元である。「時間・空間概念の育成」のためには,単に地層のでき方や層の構成物についてとらえるだけでなく,地層を調べることによって地層の縦への重なりや横へめ広がり,つまり点から面,面から空間への広がりをとらえるとともに,その土地全体のでき方について推論していく楽しさを味わうといった学習活動が重要となる。しかし,学区内に適当な地層が見当たらずに,いわば全国版である教科書の写真やビデオなどをもとに授業を進めざるを得ないことも多く,身近にある地層と比較しながら「推論の楽しさ」を味わわせるところまでいくのは難しいと思われる。
そこで,福島県内で見られる地層についてデータベース化し,子供たちが実際に調べてきた身近な地層と比較したり,地層の全体像から層の構成物までをとらえたりすることができるようなマルチメディアソフトウェアを開発し,子供たちの「もっと調べたい」,「さらに探究したい」という意欲的な学習を支援していきたい。そして,自分たちが住んでいる土地のでき方や私たちの郷土福島県の太古の様子に思いを馳せる活動へとつながっていってくれればと考える。
2 開発の構想
ソフトウェア開発にあたっては,特に以下の2点について考慮しながら進めるようにする。
○ 福島県内で見られる地層を調査し,各調査ポイントを地図で表したり,地層の様子を写真や映像等を用いたりして地層の全体像から層の構成物までをとらえることができるようにする。
これによって,自分たちの住んでいる地域の近くにも特徴ある地層があることに気付かせるとともに,地層を身近に感じさせながら地層に対する興味・関心を持たせることができるのではないかと考える。
○ 子供たちが観察してきた地層についても,福島県の地層の一つのデータとして書き加えられるようにするとともに,地層の重なり方等を本ソフトに収納されている地層と比較しながら学習を進めていけるようにする。
これによって,子供たちの直接体験への関心・意欲をより一層高めるとともに,身近にある地層の広がりや自分たちが住んでいる土地のできかたについて,推論していく楽しさを味わわせることができると考える。