研究紀要第109号 「「生きる力」としての「学力」を育てる学校教育の創造」 -001/166page
「生きる力」としての「学力」を育てる学校教育の創造
〜小・中・高における授業の改造〜
研究推進委員会
子どもたちを 取り巻く環境とともに子どもたちの生活の現状が,急変し,今,学校は,いじめ,登校拒否,校内暴カなど解決が,急がれる多くの問題を抱えており,学校教育には,「変化の激しい先行き不透明なこれからの社会に主体的に対応することができる子どもの育成」が強く望まれている。
本研究では,こうした教育の現状やその背景 の考察をもとに,研究課題を「『生きるカ』としての『学カ』」を育てる学校教育の創造」,サブ・テーマを「小・中・高における授業の改造」として研究を推進してきた。「『生きる力』」を「人間として意味深く生きる力」であると捉えるとともに,それを育てる事は,「生きようとする力(生きる目標)」「活かす力(自己改革)」「共に生きる力(自己実現)」を総合的に育てる事でもあると考え,そうした力を育てるために,「やる気」「自分で考える」「他と共に」という視点からの授業の改造を探ろうとした。さらに,授業は,「教師の改造」「教材の改造」「学級の改造」,そして,それらのを基盤とした「授業の改造」という4つの視点からの取り組みによって改造されるだろうという見通しのもとに,それぞれの視点ごとに「研究主題」を設定し,「『生きる力』」としての『学力』」を育てるための「授業の改造」について,より具体的な研究方向を示したものである。
I 研究の主旨
第15期中央教育審議会の「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」の第I次答申は,今後における教育の在り方として,「ゆとり」の中で,子どもだちに「生きるカ」を育んでいくという理念を中核に据え,具体的には,教育内容を厳選するとともに,家庭や地域社会における教育を充実ること,さらに,学校週5日制の完全実施等,社会の変化に対応すべく学校教育の改善を図ることを言している。また,第2次答申では,個性尊重の考え方に立ち,―人―人の能カ・適性に応じた教育を重視すること,そのために,教育システム等の改革を目指し,大学・高等学校の入学者選抜の改善や高―貫教育の導入などの具体像を示している。
この中央教育審議会答申に関して,前国立教育研究所長の菱村幸彦氏が,「あえて答申の核心を言―で要約すれば,21世紀の教育は「生きるカ」の育成をめざすと提言していると言っていい。(1)」と述べているように,知・徳・体の調和のとれた,全人的な「生きるカ」の育成は,これからの学校教育の中心的な課題であると考える事ができる。
こうした「生きる力を」核心とする教育改革の動きは,子どもたちの生活の現状の問題や激変する社会への対応の問題等に追い立てられるようにして生まれてきた。
国際化,情報化の進展に伴う,あるいは高齢化社会の到来に伴う様々な問題は,社会の変化に的確かつ迅速に対応できる方を子どもたちに培うことを迫っており,そのために学校は,これまでの教育観や学校観を白紙に戻し,基本的な発想の見直しをしなければならなくなっている。
また,学校週5日制の完全実施が2002年にはやめられるといった情勢は,改革に拍車をかけ,教育課程の編成や学校運営の在り方などについても具体的な提案を求めている。
さらに,いじめ,登校拒否など,心の教育にかかる課題が山積し,もはや学校という限られた社会の中の努カだけでは解決が難しくなっている今日ではあるが、学校はそうした多くの課題を解決するため