平成9年度 研究紀要 Vol.27 個人研究 -122/166page

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III 研究の構想

1 フリーカード法について

フリーカード法は,大阪大学の水越敏行民の研究室で,川喜多二郎氏のKJ法にヒントを得て活用している授業研究の手法である。

KJ法は,「分散しているデータをいかにまとめるか」「衆知をいかにまとめるか」など,データや考えを結合して,新しい意味を作り出していく方法論として考案 されている。フリー力―ド法は,このKJ法を授業観察に導入したものである。

授業の観察者は,授業を見ながら気付いたことを思いつくままにカードに記入していく。この後,類似のカードを集めてグループ化し,グループ間の構造化を図るなどして,授業の特徴を明らかにしたり,問題点を焦点化したりする。

2 予備研究での成果

平成8年度,会津若松市立湊中学校,大戸中学校に協力を依頼し,フリーカード法による授業研究会を実施した。ここで明らかになったことは次の通りである。

(1)授業者にとってのメリット

○授業の特徴が明確になる。
○授業の改善点が浮き彫りになる。

(2)観察者にとってのメリット

○少数意見が尊重される。
○他の観察者の授業観察の視点が分かり,授 業を見る目が養われる。

(3)授業研究会活性化の観点からのメリット

○観察対象の授業における観察者に共通する 問題の洗い出しやその焦点化が図られる。

この中で特に着目したいのは,「観察者にとってのメリット」である。参加した多くの教師が,観察者の多様な視点に触れることができ,授業を見る目を養うことができることに価値を見い出している。そこで,次のような仮説を設定し,その検証を通してフリーカード法の有効性を探りたいと考えた。

3 仮説

フリーカード法は,教師の授業スキルの向上に有効である。

本研究では,授業スキルを次のように規定している。

授業スキル

授業のねらいを達成するのに,一般に効果的であると判断されような教授行動のパターン

なお,「授業技術については,「特定の場面での効果を狙うもの」としてとらえ,「授業スキル」はこれを包含する概念ととらえている。

仮説設定の推論の過程を次に示す。

仮説設定の推論の過程
仮説設定の推論の過程

この仮説では,フリーカード法を活用した授業研究会を行うことによって,次の図に示すようなプロセスで授業スキルが向上していくと考えている。

すなわち,フリーカ―ド法によって自分にない授業観察の視点を獲得した教師は,自らの授業実施の際にもそのことを意識し,自分なりに工夫して授業を行うようになる。そうした教授行動が期待した成果をもたらした場合には,その教師の経験則として取り込まれる。これら経験則の蓄積が授業スキルの向上として現れてくるものと考える。


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