平成9年度 研究紀要 Vol.27 個人研究 -142/166page

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シンメトリーも含め,構成においての様々な経験は表現の幅を広げることにつながる。物理的,カ学的な制約を受けない平面の柔軟性は,自由な構成を可能にする。そこで,いくつかの経験のために,扱う題材の中にさりげなく構成への「気付き」や「発見」の要素をちりばめ,活動を通して各々の感覚の記憶として蓄積させた。また,鑑賞においては,生徒作品も含めて作者の表現意図にからめて構成の 工夫に触れるのも,互いの「気付き」に有効であるう。

小学校低学年で行われる型押し遊びは,構成を楽しみ試みる活動だとも言える。これは行為自体の面白さと版の効果が持つ意外性を共に味わえる。大きさと位置,素材感を含めた学習は,コラグラフなどに引き継がれる。これらは視覚的な奥行きに縛られない活動であり,描画に対する苦手意識や不安からも解放される。また,コンピュータ画面での様々な試行の繰り返しは,決定までのプロセスの中で,構成に関する多くの「気付き」と「発見」を与えてくれる。

鑑賞において,構成の問題は制作上の秘密として扱いたい。美しい造形の裏に隠された,時として数理的な要素を含めた秘密を知ったとき,その効果や作者の感覚と表現意図とのつながりに驚きを感じるであろう。

2 調査の反省

シンメトリーはさまざまな宗教美術や建築物にみられ,枝葉を空に向かって大きく広げた大木にも似た厳かな印象とやすらぎを我々に与える。表現の意図に合致したときこの構成は大きな効果を画面に与える。もし シンメトリーが稚拙で末発達なものと捉えられるとしたら,それはシンメトリー自体がもつ構造によるものではない。むしろ小さく四角い画面に限定するという特殊性,および,そこに表れた画面としての認識の欠如と形態の記号性との絡みに起因する。

構成感覚は,発達段階における上下の関係で捉えるのでなく,今その生徒が持っている資質としての見方から始めたい。変えねばならない必然性があるとすれば,それは生徒達の側にある。表現意図を軸にして自然にはたらく感覚として,自ら気付き獲得していくものだ。これは言うまでもなく造形教育全般の基本である。このことを2つの調査における結果を通し改めて認識させられた。

最後に,今回の調査に快く協カしていただいた先生方,ならびに貴重な資料を提供していただいた生徒たちに深く感謝申し上げます。

○調査研究協カ校

 福島県立福島高等学校   教諭 林王 昭

 福島県立福島南高等学校  教諭 佐藤 英之

 福島県立須賀川桐陽高等学 教諭 野路 庄―

 福島県立長沼高等学校   教諭 佐々木雅彦

 福島県立白河旭高等学校  教諭星 博人

 福島県立会津女子高等学校 同上(平成8年)

  福島県立四台高等学校   教諭 鷲山 秀俊

 福島県立内郷高等宇校   教諭 和田 直也

○参考資料・文献

大橋浩也「実践教育体系4・子供の発達と造形表現」
   開隆堂(1982)

岩中徳次郎「画面構成―セザンヌからでと斎まで―」岩崎美術社(1984年)

寺沢節雄「教育美術N0641・造形創造の教育学」   財団法人教育美術振興会(1995)

ビクター・ローウェンフェルド「美術による人間形成」
   黎明書房(1963)

第49回全国造形教育研究大会資料「現代高校生の基礎
   的造形能カ及びその表現傾向の分析」

東京都高等学校美術,工芸研究会'96研究プロジェクト(1996)

なお調査の設問2・3・5・7は大橋皓也氏の許可を得て「実践教育体系4・子供の発達と造形表現」から抜粋して使用した。


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