平成9年度 研究紀要 Vol.27 個人研究 -160/166page
<家庭の様子>
○会社員の父:多忙で,本人との関係が希薄である。
専業主婦の母:気配りが細やかで,本人と二人でいることが多く世話を焼きがちである。
兄:最近,同居する。運動にも勉強にも積極的で,本人とはよい関係である。
4)指導援助の方針
< 高校の教育相談係 → 本人>
○定期的な相談面接を実施し,本人に自分 自身を見つめさせる機会とする。
○気持ちの安定を自分で図れるよう援助を する。
○家族の協カ,学校全体での取り組みを通 して,多くの人とかかわりがもてるように することで,本人に自信をもたせ,自立心 や社会性を育てる。
指導援助の経過
自分が話したい人,自分を見てくれている人がいることの心地よさに気づき始めたI子
<4月〜8月>
「今年は個別面接なので話しやすい。もっと早く話をすればよかった。でも,進路のことを考えると憂鬱」というI子の話から,教育相談係の教師Aは時間的にも環境の面からも,ゆでくり話せるように配慮した。また,教師Aは同じ教育相談係のべテラン教師Bからアドバイスをもらいながら,相談面接の方向性を探った。
相談面接を始めて1か月が過ぎたころから「頭が痛い。外出したくない」「近所の人の目が気になる。みんな私のことを噂してるから…,…‥」とI子は自分の気持ちを話すようになってきた。また,頭痛が続くことから行動療法を取り入れ,気持ちの安定を自分で図れるように働きかけをした。
教師Aは,自分自身によいイメージをもてずに苦しんでいるI子に心理検査を実施し結果からみられる長所を本人に伝えた。このことはI子を「自分のことをきちんと見てくれる人がいた。今まで誰も私のことをどう見えるか話してくれなかった。私にもそんなよいところもあったんだ」という気持ちにさせ,勇気づけた。
気持ちや行動が外に向いてきたI子
<9月〜11月>
母親から,話をしたいという手紙が届き,母親と相談面接を行う。
<母親から見た本人の変化>
・相談面接があった日には,元気に学校の話をすること
・ 自分の思いを聴いてもらえること,外でも―人でないと感じていること
家族,教師A,教師Bにとって,驚くことがあった。それは,友達と外出し,10年ぶりに映画を見てきたことである。自分から外に出たのである。最近は,頭痛もなくなっているという。
担任や教科担当の教師から,文化祭への出品と進路セミナーへの参加を勧めたところ「自信はないけどやってみる」「就職について母や姉と話している」と迷いながらもどちらにも参加した。さらに「外に出ることも大切だし経済的なことも考えるとアルバイトもしてみたい」と話している。
教師Aは,母親と2度目の相談面接を行った。
・外に出かけることを苦にしなくなっ たこと
・アルバイトも長続きしそうなこと
・明るくなったので「がんばって」と いうことばを親として言えるようになったこ と
・また立ち止まるかもしれないから,ゆっくり見守っていきたいこと
(学校でのよかったかかわり)
○本人に今必要な支援の方向を設定し,教育相談係を中心として本人の思いを受けとめるかかわり,自分を見つめさせることで自信の回復を待つかかわりをした。