研究紀要第115号 「「生きる力」としての「学力」を育てる学校教育の創造」 -002/117page
2 特に重要な課題
いっこうに減少しないいじめや登校拒否の問題,増加の傾向にある深刻な校内暴力の問題,多くの子どもたちや親を巻き込んだ受験を巡る様々な問題などが依然として残されている。
3 これからの先行き不透明な社会
高度情報化社会の到来,科学技術の高度化・専門化,地球環境・エネルギー資源の問題,少子・高齢化社会に関わる問題,一層重要になる国際的な相互依存関係などへの対応が求められている。
III 研究の概要1「生きる力」としての「学力」を育てる学校教育
(1)「生きる力」とは
「生きる力」とは,「人間として意味深く生きる力」であると捉える。ヒトはヒトとして生まれるがヒトは人間として生きていくことに価値があり,意味がある。自分は人間として,こうありたいと願い自らを望ましい方向に導いていくことこそ,人間として意味深く生きることであると考える。その意味で,意味深く生きるということは,自己実現を図るということでもある。
(2)「生きる力」としての「学カ」とは
「『生きる力』としての『学力』」を,「『生きる目標』を持ち,それに向かって『自己を改革』し『自己の実現』を達成していく力」であると考える。
1.「生きようとする力」(生きる目標)
「人間として意味深く生きる」ためには,根源的なエネルギーである「生きようとする力」は欠かせない。そして,「生きようとする力」は「生きる目標」を持つことによって生み出される。従って,学校は一人一人の子どもたちに,適切な目標を持つことができるよう支援していく必要がある。
2.「活かす力」(自己改革)
人間として意味深く生きようとするには,自己を改革していくことが必要である。そして,「自己改革」を可能にするのが「活かす力」であると考えられる。「活かす力」は,基礎的・基本的事項の応用力や転移力ということができる。従って,学校は体験的な学習や総合的な学習を通して,問題解決に活かせる力を育てていくことが大切である。
3.「共に生きる力」(自己実現)
「生きようとする力」や「活かす力」は,一人一人の子どもたちが人間として意味深く生きていくために,極めて大切な要素である。しかし,自己中心的な,排他的な姿勢で生きている場合には,前述の1.と2.の2つが多くの問題の要因になる場合がある。そこで,「自己実現」を図る上で最も重視しなければならないのは,「共に生きる力」であると考えられる。
「共に生きる力」は,人間関係をつくる力であり豊かな「自己実現」を支える力である。
従って学校では,集団で学習することの特色を生かして,子どもたち一人一人が「共に生きる力」を身に付ける取り組みを,学校の全教育活動を通して積極的に推進していくことが大切である。
(3)「生きるカ」としての「学力」を育てる
「生きる力」を育てることは,子どもたち一人一人が「生きる目標」を持ち,「自己改革」の方法を学び,「自己実現」の喜びや充実感を味わえるようにすることである。これを先の「生きる力」の要素と結びつければ,次の図のようになる。
では,「生きる力」としての「学力」を授業の中でどのようにして育てていけばよいのだろうか。
授業の中で「生きる力」としての「問題解決力」,「豊かな人間性」,「健康や体力」を総合的に育てることを次のように考える。