研究紀要第117号 「学力向上のための授業改善に関する調査・実践研修 第3年次」 -047/117page
高等学校芸術(音楽I) 鑑賞活動を活性化させるための指導の工夫
〜創作活動との関連を通して〜
長 期 研 究 員 星 英 一
1 研究の動機
(1) 音楽教育における鑑賞活動の意義
高等学校芸術科(音楽)では,生涯にわたって音楽を愛好する心情の育成を目標にあげている。その観点からみると,鑑賞活動はとても重要な意味を持つと考えられる。なぜならば,鑑賞,すなわち音や音楽を聴き,理解したり感動体験を得たりする活動は,音楽活動すべての土台となるものであり,多くの生徒にとって,生涯にわたり音楽を愛好する上での最も基本的な活動になるであろうと考えられるからである。現在,鑑賞においては,西洋クラシックスタイルによる音楽(ポピュラー音楽を含む)のみならず,我が国の伝統音楽やアジアをはじめとする世界の民族音楽などの多様な音楽を取り扱う。そのため,さまざまな音楽様式に対する理解と鋭敏な感性が必要とされている。また,よりよい音楽表現のために,それぞれの表現を鑑貰できる力が必要とされることからも,鑑賞活動を活性化させることは,音楽教育において大切であると考える。
(2) 創作活動と鑑賞活動の関連
イギリスでは,1970年以降CMM(Creative Music Making )による創造的音楽づくりの授業がペインター(Jonn Paynter )らにより提唱され,現在ではイギリスの音楽救育のカリキュラムに取り入れられている。また,日本では,その教育方法が「創造的音楽学習」として紹介され,実践が行われるようになった。小泉恭子は,「創造的音楽学習」は,日本では創作活動自体に主眼が置かれることが多いが,イギリスでは「音楽構造の理解」を目的として行われており,鑑賞活動を指導計画に組み入れることにより成果を上げている,と指摘している。 注1
また,坪能由紀子はその著書の中で,カナダの作曲家で環境音楽の分野でも名高いマリー・シェーファーの次のような文を引用している。
「音楽家としての今までの経験からわかったことは,音について学ぶには音をつくることが必要であり,音楽について学ぶには音楽をつくることが必要だということである。」 注2
これらのことから,創作活動によって音楽の構造を理解する学習を取り入れることにより,鑑賞活動において,生徒が音楽を構成するさまざまな要素や音楽の構成に気付き,意欲を持って多面的に音楽を味わうことができるのではないかと考えた。また,そのような指導の在り方について研究したいと考え本主題を設定した。
2 研究のねらい
研究を通して,以下のことにアブローチする。
○ 音楽を形づくる諸要素や音楽の構成に目を向けることのできる創作活動の在り方はどうあればよいか。
○ 音楽を形づくる諸要素や音楽の構成に関心を持つことによって,鑑賞活動に対して生徒の 認知面 での変容があるか。
○ 音楽を形づくる諸要素や音楽の構成に関心を持つことによって,鑑賞活動に対しての生徒の 情意面 での変容があるか。
3 研究方法
(1) 創作活動における日本およびイギリスの先行研究に関する文献研究
(2) 創作活動と鑑賞活動の関連を図りながら,音楽を形づくる諸要素や音楽の構成についての理解を目標とする指導計画の作成と授業による検証
(3) 授業実施クラスと未実施クラスの比較調査による指導計画の有効性の検証
4 研究計画
○ 文献研究および教材研究(4〜8月) ○ 指導計画の作成(9〜10月) ○ 検証授業の実施(11〜12月) ○ 事後調査(12月) ○ 研究のまとめ(1月)
注1 「音楽の発見『ミューズ的表現』」音楽之友社,1997年
注2 「音楽づくりのアイディア」音楽之友社,1995年