研究紀要第118号 「基礎学力向上のための授業改善に関する実践的研究」 -052/117page
II 研究の基本となる考え方
1 基礎学力の向上
学力とは,児童生徒一人一人が将来,社会において,自ら考え自ら学び,社会の変化に主体的に対応していくのに必要となる,「関心・意欲・態度」「思考・判断」「技能・表現」「知識・理解」などの資質や能力と大きく捉えることができる。学校では,これらの資質や能力の基礎を培うことになる。
したがって,基礎学力の向上を図る学習指導では,学習内容についての関心や学習に対する意欲を高め,それらを持続させながら,思考力や判断力,表現力を働かせる過程を経て,児童生徒が,その後の学習の中で活用し得る知識・理解,技能を自分から進んで獲得できるように授業を進めていくことが大切である。
学力には,関心・意欲などの情意的側面,思考・判断,知識・理解などの認知的側面があるが,それぞれの重要性は認識されていながらも,実際の指導では一方にのみ教師の意識が働いてしまっている傾向がある。学力が向上するときにはこの両者が相互に作用し合って高まっていくものと考えられる。基礎学力の向上を目指した学習指導を考えるとき,情意面と認知面をともに重視し,かつ,それらの関わりに配慮して学習指導にあたっていくことが大切である。
そこで本研究では,関心・意欲が持続し,思考活動が活発になることが,基礎学力の向上につながるという考えから研究を進めた。
2 思考活動のとらえ方
理科の目標のひとつは科学的思考力の育成である。技術・家庭の目標は,生活に必要な基礎的な知識と技術の習得,生活を工夫し,創造する能力の育成であるが,知識や技術の習得及びそれらを活用する過程,工夫,創造の過程では自分の頭でものを考え,判断し,表現することが要求される。技術・家庭においても思考力の育成は大切であり,その思考の基礎になるものは科学的な思考である。
科学的な思考は,一般に下の表の1.(まる1)〜10(まる10)のように,いくつかの要素に分けて捉えられる。これらは,科学的思考力を評価する際の観点として取り上げられている。理科や技術・家庭の学習で,児童生徒がある課題を解決しようとしたり,ある事象を理解しようとしたりするとき,その課題や事象が単純か複雑か,具体的か抽象的か,などの程度に応じてこれらの要素の中で必要な要素が組み合わされ,科学的な思考活動が行われる。
また,ある事象を理解するとは,事象にみられる事実関係,事象と事象の間の相互関係や因果関係,複数の事象間の総合的な関係をつかむことであると考えることもできる。上の表の左側の I 〜IV は,科学的な思考を,事象理解の段階という視点から捉えたものである。中央の線は両者のかかわり合いを示す。
本研究では,思考活動を,当面の課題を解決し,事象を理解していく過程であると考え,次表のような活動として捉えた。このような思考活動が活発に行われるとき,事象理解の各段階で働く思考も深まると考えた。