研究紀要第118号 「基礎学力向上のための授業改善に関する実践的研究」 -069/117page
V 研究の成果
観察・実験,実習について工夫・改善を図り,思考活動を活発にする実践研究から,次のようなことがわかった。
実践1 電流のはたらきの単元の導入時に,身近な素材を用いて簡易スピーカーづくりを行った。これは,磁石にコイルをつけ,その上に空き缶などをのせた単純な構造のものであるが,音は明瞭に聞こえ,通電時のコイルの発熱や振動も実感できる。さらに,磁力が生じることや電流の向きによって極性が変化することなどへ発展的に学習が展開できる。児童一人一人がこの教材をつくり,それを用いて観察・実験したことで,エネルギー変換についての理解を深めることができた。このように,「身近な素材を用いたものづくり活動」は,課題意識を高めて思考活動を活発にし,もののしくみや科学的な慨念についての理解を深めるのに有効であった。
実践2 音の単元はどの項目からでも学習が展開できるので,生徒が課題を設定し,その課題を解決するのに必要な実験を「実験群」から選択する課題選択学習を取り入れた。「実験群」は,多様な生徒に対応するため,操作が手軽で直観的にわかるように工夫した観察・実験などを,課題ごとに構成した。生徒は自分の課題を解決するために,「実験群」の中から実験を選んで課題解決に取り組んだ。これら一連の活動によって,生徒は音の性質を振動と関連付けて考えるようになり,音についての理解を深めることができた。
このように,生徒指導の機能を生かし,「実験群」の中から課題を解決するための実験を自己選択させることは,課題解決意欲を高めて思考活動を活発にし,確かな知識・理解の獲得に有効であった。
実践3 回路計の学習において,身近な電気器具のアイロンを題材として取り上げた。簡単な問題から複雑な問題の解決をめざして,事実関係,相互関係,因果関係,総合関係という事象理解の段階に対応した4つの実習装置を開発した。これらの装置を活用して,導通試験,回路の接続の違いによる電圧や明るさの違いを確かめる実習,回路の故障箇所を見つける実習などを通して,回路計の基本操作を習得し,回路計の操作技能を高めることができた。
このように,事象理解の段階を踏まえて,技能獲得の過程をスモールステップ化した実習装置を活用することは,段階的に科学的思考を促し,確かな知識と技術の獲得に効果があった。
実践4 抽象的で難しい概念であるエネルギーのイメージ化を図るために,「実験群」として構成した一連の実験をワークシートを用いながら行わせた。「実験群」は,身近な事象や先端的な技術の中から,エネルギーの変換過程が単純なものから複雑なものまで幅広く選択して構成した。また,ワークシートは,「実験群」の実験を総合的に関連付けて考えることができるように工夫した。生徒は,班単位で各実験を行い,ワークシートに基づいて学習を進めることで,エネルギーに対するイメージを深めることができた。
このように,概念を多面的に捉えることができる「実験群」の実験を行い,ワークシートを活用して実験結果を総合的に関連付けることは,思考活動を活発にし,概念形成を進めるのに有効であった。
実践5 地球と惑星の運動の単元は,時空のスケールが様々で,直接観察が困難な内容が多いため,疑似的な観察を取り入れた。身近な場所で教師が撮影したスライドを活用して,日周運動を観察させた。高い機能を持つプラネタリウムを活用して,天体の運動を繰り返し再現して観察させた。まとめや新たな課題の解決のために,生徒自身にコンピュータを操作させ,分析的にシミュレートさせた。これらの疑似体験を通し,生徒は地球や惑星の運動の理解を深めることができた。
このように,直接観察が難しい事象の学習におい