研究紀要第120号 「豊かな人間関係を育む指導援助に関する研究 第2年次」 -091/117page
豊かな人間関係を育む指導援助に関する研究(2年次)
−人間関係をつくるカの育成を通して−
教 育 相 談 部
研究の要旨 不登校等の問題は,本県においても年々増加の傾向にあり,対人関係での体験不足や希薄化にその要因が認められる。このような現状から,本研究では「人間関係をつくる力」の育成を通して,互いを受入れ,支え合える豊かな人間関係を育むことが児童生徒の自己実現に欠かせないものととらえた。 研究を進めるにあたって,人間関係をつくる力を,基本的信頼感を土台とした「自己肯定感」「他者とのかかわりを深めたいという思い」「思いを伝える技能」とおさえた。 今年度は,「自己肯定感」「他者とのかかわりを深めたいという思い」の2点に焦点をあて,援助過程の工夫を行いながら,授業を通して実践的に検証してきた。 成果として,1つは,肯定的な感情交流が図られる活動を実施し,自己の内面と向き合うシェアリングの場を位置付けた指導援助が自己理解や他者理解を促進させ,自己肯定感の形成に有効であること,もう1つは,自己・他者を肯定的に見る目を養い,自己受容,他者受容を深める指導援助を行ったことが他者とかかわりたいという思いを高め,豊かな人間関係づくりにつながっていくことの2点が確認された。 I 主題設定の趣旨
少子化や核家族化,親の養育態度や日々の遊びの変化などによる子どもの人間関係の希薄化が,いじめや不登校などの様々な社会問題に共通する要因と考えられる。
人間関係の希薄化は,1. 情意の問題,2. スキル(技能)の問題,3. 環境の問題の3つに大別して考えられる。情意の問題とは,対人不安や劣等感の増大が,現実に即した肯定的な自己理解,他者理解を阻害しているという問題であり,スキルの問題とは,友達との接し方や人間関係のつくり方,問題への対処の仕方など,対人関係への対応能力や処理能力が身に付いていないという問題である。そして,環境の問題とは,豊かな人間関係を育む仲間,時間,空間が保障されていないという問題である。
学級は,集団の教育力によって個のよりよい成長を促す場である。しかしながら,その学級では,知識の習得に主眼をおいた教育が少なからず行われてきた。つまり,他者を思いやる心の育成(情意)や自己表現,問題回避の仕方等の人間関係能力育成(技能)へのアプローチが十分ではなかったのではないかと考えられる。
そこで,「人間関係をつくる力」の育成を通して,ありのままの自分を肯定的に受け入れるとともに,相手の思いを受け止めながら自分の気持ちを表現することのできる児童生徒の育成を図ることによって,互いを受け入れ,支え合える豊かな人間関係を育むことが児童生徒の自己実現に欠かせないものであると考え,標記の主題を設定した。
II 主題についての考え方
人間関係は,乳児期の母親とのかかわりから始まり,十分な愛情や依存を味わう中で獲得される基本的信頼感が土台となってつくられる。幼児期には,自分の行動が認められた,または認められなかった経験が他の存在を意識させ,自分の言動に目を向けるようになっていく。学童期以降には,家族や友達に認められたい,受け入れられたい欲求が,自分の