研究紀要第124号 「基礎学力向上のための授業改善に関する実践的研究」 -032/076page
表2 [科学的な思考の要素]
1 問題を正しく把握する。
2 適切な観察・実験,実習を計画する。
3 比較し,分類する。
4 数量的に把握する。
5 結果を予想する。
6 原理・法則を適用する。
7 筋道を通して推論する。
8 分析的に判断する。
9 関連付けて総合的に判断する。
10 モデル化して考える。これらの要素の中から,課題や事象の複雑さや具象・抽象の度合いに応じて,必要な要素が組み合わされて思考活動が行われる。思考活動が活発に行われることにより,課題が解決され,事象の理解が深まると考える。
2 科学的な思考の要素に着目した教材の工夫・改善
観察・実験,実習においては,児童生徒が自ら進んで考えたり,工夫したりするなどの思考活動が行われる。この思考活動を活発にするためには,学習内容とそこで用いられる教材についての科学的な思考の要素についての分析が必要となる。すなわち,生徒が教材を用いて観察・実験,実習を行うとき,どのような科学的な思考が働き,それを支援するためには,教材をどのように工夫・改善すべきかを明確にしなければならない。また,この教材を授業で用いるときには,指導過程における位置付けと児童生徒の実態に応じた提示や活用方法も考慮しなければならない。これらの視点に立ち,教材のエ夫・改善を行い,その教材を適切に用いた授業を行えば,児童生徒の科学的な思考が促され,思考活動を活発にできると考える。
III 研究の内容
1 教材をエ夫・改善した授業実践
本研究では,各実践の授業展開で用いる教材に,科学的な思考のどの要素が必要かを分析し,教材の開発,工夫・改善を行った。そして,それらを用いた次の授業を実践した。
表3 [授業実践で用いた教材]
実践 対象校・教科 工夫・改善した教材 1 小学校理科 ・光電池付きレベルインジケータ
・フィルムケース温度上昇感知器2 中学校理科 ・紙ブーメランと風力モ―ターカー
・電気盆3 中学校理科 ・自記式風向計 4 中学校技術・家庭 ・コンセントサンプル
・許容電流実験装置
・発電モデル装置
・配電線モデル装置
・導通試験練習装置
・電気回路設計装置
・待機電カ測定装置5 高等学校理科化学1B ・セルプレートとプラスチック製注射器
・識別用酸・塩基群6 高等学校理科生物1B ・寒天包埋固定標本
・粘土による胚モデル2 思考活動等の調査・分析
調査は,昨年度用いた自己評価票等の内容や評価の方法を再検討し,児童生徒の自己評価により行った。
調査1 思考活動の程度
調査2 教材・教具についての評価調査 1 は,表1「思考活動の過程」の項目1〜8を評価項目として思考活動の程度をみるために用いた。調査は,児童生徒の4段階(あてはまる,だいたいあてはまる,あまりあてはまらない,あてはまらない)の自己評価で行い,授業の前後の変容を調べた。その結果を比較することで,工夫・改善した教材が,児童生徒の思考活動を活発にしたかどうかを調べた。
調査 2 は,エ夫・改善した教材が,児童生徒の科学的な思考にどのような影響を与えたかをみるために用いた。調査用紙を実践ごとに作成し,授業の後で,児童生徒に自己評価させた。また,教材や授業に関する感想なども自由に書かせた。
調査 l と調査 2 の結果から,各実践において活用した科学的な思考の要素に着目した教材が,児童生徒の思考活動を活発にするのに有効であったかどうかを調べた。