研究紀要第124号 「基礎学力向上のための授業改善に関する実践的研究」 -041/076page
実践5
高等学校 理科 化学IB 1 単元・対象
○ 酸と塩基の反応
酸・塩基・塩の識別実験(2時間)
○ 2学年1クラス 41名2 教材のエ夫と活用
(1)酸・塩基・塩の識別実験のエ夫
a セルプレートとプラスチック製注射器
酸・塩基の学習では,酸・塩基の性質,pHなど各内容ごとに,それぞれ実験を行い理解を図っている。学習のまとめとして,活用する器具や,識別する酸・塩基・塩の種類,識別に用いる試薬等の教材を工夫して,酸・塩基・塩の識別実験を行った。
この識別実験によって,酸と塩基の反応で学習した「水溶液の酸性・塩基性とpH」「酸の価数と中和の量的関係」「強塩基による弱塩基の遊離」などの内容を,総合的に理解させることができると考えた。
セルプレートは,同じ大きさの円筒形の容器がいくつか連なっている組織培養用のプラスチック容器である。ビーカーや試験管を用いて識別実験を行うには,溶液の量がある程度必要であり,数多くのガラス器具を使わなければならない。セルプレートを用いると,必要とする溶液の量が少なくて済み,かつ器具の数も少なくして実験できる。
識別実験に用いた12穴のセルプレートまた,たくさんの容器が連なっているため,水溶液同士の反応による色の変化などを同時に比較したり,結果が不明確な場合に二度,三度と繰り返して体積などの条件を変えて実験を行い,結果を確認したりすることができる。
実験条件など自分なりの工夫が生かせるセルプレートとプラスチック製注射器を教材として活用することは,適切な実験の計画を立てたり,溶液同士の反応の違いを比較・分類したり,中和反応を数量的に把握したりすることが容易であるため,科学的な思考を促すことができる。 b 識別対象の物質と識別に用いる試薬類
プラスチック製 1ml 注射器は,ピストンの操作で少量の溶液を量りとったり,1滴ずつ滴下することができるため,使用する溶液の体積を自分で調節して実験することができる。また,ガラス製の器具よりも水切れがよいため,注射器を水洗後数回共洗いすることで,水溶液の採取と体積の測定が1本で済む。
プラスチック製 1ml 注射器
識別する酸・塩基・塩の組み合わせについては,生徒が取り組みやすいように,学習の過程で扱ったものから6種類の物質を選び,それぞれ0.1mo1/lの水溶液を調整した。表1 識別対象の酸・塩基・塩
また,上記の水溶液以外に,これらの水溶液を化学的に識別するため,次の水溶液や試験紙を準備した。
種類 選んだ観点 酸 塩酸 1価の強酸 硫酸 2価の強酸 塩基 水酸化ナトリウム 1価の強塩基 アンモニア 2価の弱塩基 塩 炭酸水素ナトリウム 弱酸と強塩基の塩 塩化アンモニウム 強酸と弱塩基の塩 表2 識別に用いる試薬類
試薬類 活用する場面 0.1mo1/lの塩酸と水酸化ナトリウム水溶液 中和の量的関係を調べるのに用いる。 2mo1/lの塩酸と水酸化ナトリウム水溶液 弱酸,弱塩基を遊離させるのに用いる。 フェノールフタレイン溶液 中和の量的関係を調べるのに用いる。 万能pH試験紙 大まかに酸,塩基・塩の液性を調べるのに用いる。