研究紀要第126号 「豊な人間関係をはぐくむ指導援助に関する研究」 -057/076page

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豊かな人間関係をはぐくむ指導援助に関する研究(3年次)

―人間関係をつくる力の育成を通して―

教育相談部部

 研究を進めるにあたって,人間関係をつくる方を,基本的信頼感を土台とした「自己肯定感」「他者とのかかわりを深めたいという思い」「思いを伝える技能」とおさえた。
 昨年度は,「自己肯定感」に焦点を当てた実践研究を行った。成果として,1つは,肯定的な感情交流が図られる活動を実施し,自己の内面と向き合うシェアリングの場を位置付けた指導援助が自己理解や他者理解を促進させ,自己肯定感の形成に有効であること,もう1つは,自己・他者を肯定的に見る目を養い,自己受容,他者受容を深める指導援助を行ったことが他者とかかわりたいという思いを高め,豊かな人間関係づくりにつながっていくことの2点が確認された。
今年度は,「思いを伝える技能」が高まる指導援助の在り方について,人間関係をつくるカの実態を明らかにする事前調査の実施や学習過程の工夫を行いながら,授業や日常の指導を通して実践的に検証してきた。その結果,自己や他者の思いを大切にして友だちとかかわろうとする態度や,日常生活への行動化が促進され,互いを受け入れ支え合う学級集団が形成されてきた。このことから,「思いを伝える技能」を高めるには,日常の指導の場を中心とした「自己肯定感」の育成を基盤に,認知スキルや行動スキルに視点を当てた指導援助が有効であることが確認できた。
豊かな人間関係づくりには,人間関係をつくるカとしておさえた「自己肯定感」「思い」「技能」の3つの要素が重要であり,他者との肯定的な感情交流の中で,この3要素が相互に作用しながらスパイラル的に高まっていくことが明らかになった。

I 主題設定の趣旨

児童生徒は,他の児童生徒や教師とのかかわりの中で様々な活動に取り組み,多くの体験を積み重ね,それぞれが持つ課題の解決に努力し,個性を伸ばしながら自己改革,自己実現を図っている。この「自己改革・自己実現」が「生きるカ」としての学力であり,この力をはぐくむためには,友達や教師,家族など,他者との人間関係を豊かなものに改善,充実することが望まれる。
 ところで,本県においても,不登校などの問題は年々増加の傾向にあり,対人関係での体験不足や希薄化にその要因が認められる。このような現状から教育相談部では,「人間関係をつくるカ」の育成を通し,ありのままの自分を肯定的に受け入れるとともに,相手の思いを受け止めながら自分の気持ちや考えを表現できるようにすることが,互いを受け入れ支え合える豊かな人間関係をはぐくみ,児童生徒の自己実現に有効であると考え標記の主題を設定した。

II 主題についての考え方

 人間関係は,乳児期の母親とのかかわりから始まり,十分な愛情や依存を味わう中で獲得される基本的信頼感が土台となってつくられる。幼児期には,自分の行動が認められた,または認められなかった経験が他の存在を意識させ,自分の言動に目を向けるようになっていく。学童期以降には,家族や友達に認められたい,受け入れられたい欲求が,自分の考えや行動を規制する。そして,友達や家族の感情や期待,行動の仕方などを知る(他者理解)ことによって,自分自身をさらに知る(自己理解)ようになる。特に,肯定的な自己理解や自己受容は高い自己肯定感を形成し「新しい人間関係をつくりたい」「現在の人間関係を深めたい」など,他者にかかわろうとする能動的な思いを高めていく。しかし実際には,体験や集団での遊びの欠如などから,「自分の気持ちをどう伝えたらよいか」「相手とどう付き合ったらよいか」など,人間関係でつまずいてい


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