研究紀要第126号 「豊な人間関係をはぐくむ指導援助に関する研究」 -070/076page

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 中学2年の学級では,開放的内容の割合の増加が顕著であった。3年次研究のみの協カ学級であるため,自己肯定感と技能の認知面に視点を当て,他者から受け入れられているという実感を感得させてきたためと考えられる。特に,よさの自己受容が0.6ポイントと大きく上昇し,肯定的な他者理解も高まっていたことから,技能の認知面に視点を当てた指導援助が,自己や他者の気持ちを大切にした自己表現への態度化に有効に働いたと考えられる。
 2学級とも,協カ・向上的な内容が増加し,かかわりたい思いが具体的な行動となって表れてきていることから,思いを伝える技能の育成が豊かな人間関係づくりに結びつくことが確かめられた。

V 3年次研究の成果と課題

<成 果>

○ 「思いを伝える技能」を高めるには,自己肯定感を高める日常の指導を基盤に,認知スキルや行動スキルに視点を当てた指導援助が有効である。

 ・ ロールプレイを用いたモデリング学習により,課題意識の内面化が図られ,認知スキルが育成され,相手の気持ちを大切にしながら,自分の気持ちを素直に表現しようとする態度を育成することができた。
 ・ 相互のフィードバック情報を大切にしてリハーサル学習を取り入れたことにより,自分も友だちも大切にした行動への気づきや,行動選択の促進が図られ,行動スキルが育成された。

 ○ 「思いを伝える技能」を高めることにより,児童生徒の友だちとかかわりたい思いが具現化され,豊かな人間関係づくりに効果的に結び付いた。

<課 題>

 ○ 発達段階や学級集団の実態に即した効果的な指導援助ができるよう,指導時期を考慮に入れながら,他者とかかわる基本的な技能と発展的な技能を明確にしていく必要がある。

VI 研究のまとめ

「自己肯定感」に視点を当てた2年次の実践では,学級の雰囲気を開放的,支持的ととらえる児童生徒が増加し,互いを受け入れようとする態度を育てることができた。反面,どのように他者とかかわるかの技能が身に付いていないため,行動変容には結びつかなかった。3年次に「思いを伝える技能」を中心に指導援助してきたことにより,かかわりたい思いが具現化され,学級に一層のまとまりがでるとともに,協カ・向上的な変容として表れた。
 以上のことから,豊かな人間関係づくりには,人間関係をつくるカとしてとらえた「自己肯定感」「思い」「技能」の要素が重要であり,他者との肯定的な感情交流の中で,この3要素が相互に作用しながらスパイラル的に高まっていくことが明らかになった。

<参考文献>
・子どもの自己概念と自尊感情に関する研究
  平成元年度上越教育大学研究紀要  蘭 干壽
・セルフエスティームの心理学 ―自己価値の探究―
  遠藤辰雄・井上祥治・蘭 干壽(ナカ二シヤ出版)
・児童生徒相互の望ましい人間関係づくりに関する調査研究(研究紀要第68号 平成4年3月)
  宮崎県教育研修センター
・子どもの心理と教育
  北尾 倫彦編(創元社)
・いじめから学ぶ ―望ましい人間関係の育成―
  江川 政成著(大日本図書)
・図解・生徒指導
  嶋崎 政男著(学事出版)
・エンカウンターで学級が変わるPart l.2 (小・中学校編)
  國分 康孝 監修(図書文化)
・健康教室 1998.7月増刊 (栗山書房)
・社会的スキルの心理学
  菊池章夫・堀毛―也編著(川島書店)


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