研究紀要第126号 「豊な人間関係をはぐくむ指導援助に関する研究」 -069/076page
5 3年次研究のまとめ
(1) 指導援助の仮説から
◇ モデリング学習を位置付けたことにより,各学級共に互いの気持ちや立場を大切にしようとする態度が高まった。各学年の指導援助の考察から,以下の2点がその理由としてあげられる。
・ モデルの観察は,ねらいとする価値への方向付けや,モデルを基準とした自己の行動についての課題意識の高揚に有効であった。
・ モデルの模倣やロールプレイでは,「伝える」と「受け止める」の2つの役割を体験させると共に,感情に視点を当てた振り返りを設定したことにより,これまでの行動の修正や新しい行動の獲得への意欲づけが図られた。
◇ リハーサル学習を位置づけたことにより,相手の気持ちを受け止める聞き方や相手の気持ちを大切にしながら自分の考えや気持ちを伝える行動スキルを身に付けることができた。小学6年生の実践から以下の2点がその理由としてあげられる。
・ 計画の段階で,互いの気持ちを大切にするための言語,非言語のスキルを提示したことにより,ねらいに迫る適切な行動リハーサルへ導くことができた。
・ 2回の行動リハーサルを設定し 1回目の後,言動や感情を振り返りの視点としてグループで修正する時間を設けたことが,自己や他者の気持ちを大切にするアサーティプな自己表現のよさを実感させると共に,スキルの獲得にも効果的に働いた。
◇ 日常の指導の場では,他者理解を中心として自己肯定感を育成してきた。授業のロールプレイ場面などで,他者の様々な表現を受け止めようとする姿となって表れていたことから,特に,相手の気持ちを受け止める認知スキルの獲得に結び付いていたと考えられる。
(2)「人間関係をつくるカ」の育成という視点から
人間関係をつくる方を中心とした事前と事後の調査結果を比較し,その変容をみたところ,「技能」の高まりが大きい児童生徒ほど,それに比例して自己肯定感も高まっていることがわかった。また,「思い」の高まりも同様の傾向を示したことから,思いを伝える技能を高めることが,自己肯定感や友達とかかわりたい思いを高めたと考えられる。1年次の調査では,自己肯定感が高いほど,友達とかかわりたい思いや技能が高いことが明らかになっており,これらのことから,人間関係をつくるカの3つの要素が相互に関連し合い高まっていくことを確認できた。
このような傾向は人間関係をつくるカの背景としてとらえた項目にも共通しており,「相手のことを考えて話すことや,どう行動すればいいのかわかってきた」という感想,自己表出の高まりなどから,思いを伝える技能の育成が実際の行動化を促進したと考えられる。
(3)「豊かな人間関係づくり」の視点から
本研究では,「豊かな人間関係」を,「互いを受け入れ,支え合う」児童生徒の姿としてとらえている。これを,「開放的」「支持的」「協カ・向上的」の3 つの要素で「よいと思う学級の雰囲気」(自由記述)を類型化したのが(資料7)である。
2年継続の協カ学級(小学6年)では,記述した数に増減は見られなかったが,全体に占める支持的,協カ・向上的な内容の割合が増え,友だち関係の深まりも0.4ポイント上昇していた。また,「友だちを受け入れる許容範囲が広まり,―人―人の個性をまるごと認めている」(担任),「たくさんのことが言えるようになって,友だち関係がつくれるようになった」(児童)などの感想からも,豊かな人間関係が促進されたことがわかった。