研究紀要第127号 「「生きる力」を育てる学校教育の改革」 -002/074page
た生活体験のない子が三分の一以上になってきているなど,育ちそのものが大きく変わってきているように思われる。 注4 友だちと一緒の時間を過ごすとしても,一人はファミコンゲーム,一人はビデオ,一人は劇画雑誌という具合で,感情を交えたかかわりを通して対立したり協力したりするといった経験が非常に乏しくなっている。 注5 活動の場と時を共有しながら不干渉の生活に身を置く中では,豊かな人間関係は育ちようがなく,子供たちの精神状態を不安定なものにしている。
2 学校のおかれた状況をどう捉えるか
小・中・高等学校等は,人間形成の基礎を培う場であるとともに,自分で考え,判断し,行動する力を養い,生涯にわたって学習を続けるための意欲と能力を養う場のはずである。しかし,その学校が,「不登校やいじめ,暴力行為等によって子供たちに魅力のないものになってしまった」「子供たちから信頼される教師がいなくなってしまった」などともいわれている。教え込み・詰め込み教育によって,効率的に知識を伝授し,身に付けさせるのがよい教師と見られる傾向すらあった。しかし,子供たちが自ら学び,自ら追究していくよう支援・援助しようとしながらも,教師の指示に従わない子供たちを前にして,指導に自信を持てなくなる教師も出てきている。また,コンピュータに代表される最新の教育機器を使いこなすことに抵抗を感じる教師も少なくない。
今日,教育と名の付くものを全て学校が引き受ける時代ではなくなってきた。家庭の教育力,地域の教育力との有機的な連携を図り,家庭でこそできること,地域社会だからこそできることをお互いに認識し,子供たちの成長を共に見守り,共に促していくことが必要とされる。そういう三者のコミュニティーセンター的な役割が持てる場への変革が学校には求められているのだと言えよう。
かつての教育の現代化や基礎・基本の徹底,OHPやシンクロファックスの活用,オープンスペース型教室や創意の時間の創設など,教育改革は形を変えて現れ,教師はその都度乗り越えてきた。変化の激しい社会を生き抜く人間を育てる教師には,自ら変化に対応していく力が求められるのは当然である。
価値観が多様化し,個性が尊重されるこれからの社会にあっては,学校がよしとする価値認識を家庭や地域にも求めていくだけでなく,家庭や地域社会が学校に何を求め,子供たちのどのような成長を期待しているかを感じ取り,その葛藤を通してより普遍性のある価値基準を追究し,子供たちが身に付けていくような教育活動を展開していくことが求められよう。
3 「生きる力」をどう捉えるか
当センターではこれまで,「生きる力」を「人間として意味深く生きる力」であると捉え,「生きる力」として必要な「学力」を学校教育の場ではぐくむためには
「生きようとする力(生きる目標)」
「生かす力(自己改革)」
「共に生きる力(自己実現)」
を総合的に育てていくことが大切であると考え,実践研究を進めてきた。この捉え方は本研究を進めるに当たっても継続していく。
なお,この捉え方は文部科学省が示す
・自ら考え,主体的に判断し,行動する能力 ・自らを律しつつ他人を思いやる心などの豊かな人間性 と同義と考える。「学力」と言う場合,学んだ成果としての「学力」と学ぶ力としての「学力」とがあるが,現在求められているのは,当然,学ぶ力としての「学力」である。
3 研究の概要
1 1年次の研究内容
(1)特色ある学校づくりを目指す教育課程に関する研究
特色ある学校づくりにかかわる課題の明確化と改善の在り方について研究する。
(2)自ら学び自ら考える力を育成する授業改善に関する研究
・各教科の特質を踏まえ,児童生徒が「学ぶ楽しさ」と「成就感」を味わえる授業の在り方を研究する。
・児童生徒の科学的な思考を促すことができる教