研究紀要第127号 「「生きる力」を育てる学校教育の改革」 -004/074page

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報なのかを自ら判断し,選択していくことも重要になる。そういった諸々の力を身に付けることが「生きる力」を育てるために必要なのだと言えよう。

3 「生きる力」を育てるために,学校教育の何を,どう変えるか

 今でも学校を「知識を教える場」と捉える傾向は強い。もちろん 知識も教えなければならない。学校に来なければ身に付けることができない知識はたくさんある。ただ,これまでは「共通の知識」を身に付けさせることに汲々としすぎて,知識の獲得そのものが目的化し過ぎてしまっていたきらいがあった。知識の膨大化,知識の有効期間の減少等が著しい現在の社会にあっては,学校で身に付けた知識を核としながらも,必要に応じて新たな知識を獲得したり,自ら新たなものを生み出したり,あるいは身の回りにあふれている情報の中から自分に有意な情報を選別できることが求められる。そのような生涯にわたって働く力,すなわち「生きるカ」を身に付けるためには,各教科等で得た知識を総合化したり生活化したりすること,学ぶ喜びを体験すること等が学ぶ過程で大切となってくる。「生きる力」を育てるために必要なことを「社会体験や自然体験」「人とのかかわり」「情報選択能力」とすれば,学校教育はそれらに焦点を当てて変えていくことになる。

(1)学校経営を「社会体験」や「自然体験」を豊かにするものに変える(特色ある学校づくり)

 社会体験の基本は諸々の活動に子供たち自身がいかにかかわり合うかにある。教科等の学習場面を子供たちが互いに助け合ったり分担し合ったりといった活動を取り入れたものに変えていくことが求められる。また,学校はそれぞれの歴史や立地条件を持っており,住環境も在籍する子供たちも違う。その「自校ならではのもの」を核とした教育課程の編成・実施を考えることが大切である。地域の歴史を生かすには土地の古老を訪ねたり学校に招聘したりという地域住民とのかかわりを持たなければならないし,立地条件を生かした教育課程を展開するためには地域の人々の理解と協力を得なければならない。そのことは逆に,学校が「地域の人々が学校に対して抱いている思いや願い」を理解し,取り入れていかなければならないということでもある。そこから「地域に開かれた学校経営」を実現する必然性が生じてくる。

図1

 学校を地域に開くというと,多くの場合「学校が今,何をしているか」を地域の人々に知ってもらい,学校への協力を得るもの,と考えがちである。しかし,学校が育てようとしている子供像がそのまま地域が期待する子供像であるとは限らない。中には子供たちが訪問すると門を閉ざされるなどという話も聞く。「学校になら田畑をいつでも貸すよ」「うちの山にキノコが出たら子供たちを案内してやるぞ」などと言ってくれる地域の人が次々と現れ,公民館その他での地域の人々の活動に合流したり自然探検したりするといった,地域ぐるみの教育活動が展開されるように学校を変えていくことが求められている。そのような取り組みを通して,必然的に特色ある学校が実現されていくものと考えられる。

(2)教科等の学習活動を体験的,問題解決的なものに変える(自ら学び自ら考える力の育成)

 文部科学省の「子どもの体験活動調査」によると,子供たちの体験細り傾向が見られる中,自然体験や生活体験の豊かな子供ほど道徳観や正義感が身に付いているとの結果だったという。これとは別に,国際教育到達度評価学会(IEA)が行った国際数学・理科教育調査結果からは,日本の子供たちの数学や理科の学力は世界のトップクラスにあり,依然として高い水準であるが,それらの教科を好む者,生活の中で大切だと思う者の割合が国際的に見て最低レベルであった,という報告がなされている。 注9

 これらのデータは調査に参加した国々の国民性や参加形態等も含めて比較・考察しないと軽々に優劣の判断はできないが,学校で学ぶ事柄が子供たちにとっていかに魅力がないかを示すものと捉えることはできる。「なぜ?」「どうして?」という子供らしい疑問が大切にされ,「こうしてみたら」「違う方法だったら」という個性的な発想が認められ,自ら考え実践する学習活動が展開されるならば,一人一人が学ぶ意味を理解し,学ぶ喜びを感受し,生活の中


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