研究紀要第129号 「自ら学び考える力を育成する授業改善に関する研究1」 -025/074page
小学校体育科
導入段階に「体ほぐしの運動」を位置付けた器械運動の授業
〜指導計画の工夫を通して〜
1 研究の趣旨
近年,児童の成育環境の変化により,体力・運動能力の低下や活発に運動する者とそうでない者の二極化が起こっている。このような状況から,新学習指導要領において,すべての児童が生涯にわたり積極的に運動に親しんでいく一つの基盤として,体と心をほぐし,リラックスできるような運動「体ほぐしの運動」が新設された。この運動は,体を動かす楽しさや心地よさを味わう活動を通し,自分や仲間の体の状態に気付き,体の調子を整え,仲間と交流することをねらいとしている。従前の体操領域は体力を高めることのみをねらいとしていたが,そこに新たに加えられた内容である。
本研究は,「体育の基礎的な力」をはぐくむ授業を目指し,「体ほぐしの連動」を器械運動の導入段階に位置付け,指導計画の工夫を図ったものである。運動への意欲の向上,学び方の定着などを通して,運動に自発的,効果的に取り組むことができるようになれば,「生きる力」を支える健康や体力を自らの手で維持,向上できるものと考える。
2 研究内容・方法
(1) 「体育の基礎的な力」
本研究では,体育の学習を成立させるために必要な要素を「体育の基礎的な力」ととらえ,運動に対する意欲の向上,運動のアナロゴン削の経験,学び方の定着の3点に焦点を当てて取り組んだ。
※1 未経験の運動の基となる,簡単で類似した動きのことである。
(2) 器械運動の導入段階における「体ほぐしの運動」の位置付け
様々な取り組み方が考えられる「体ほぐしの運動」であるが,本研究では,主運動である器械運動の導入段階に位置付けた展開を試みた。器械運動のアナロゴンを含む運動や児童相互の関わり合いがある運動を楽しく行うことにより,主運動に対する意欲的な取り組み,学び方の定着,技能の向上を図ることができると考えた。
(3)指導計画の工夫
マット運動と跳び箱運動には,腕支持感覚など共通するアナロゴンが存在する。そこで,マット運動と跳び箱運動をまとめて大きな単元としてとらえ,導入の段階で共通するアナロゴンを含む「体ほぐしの運動」を行う。「体ほぐしの運動」に十分に親しませるため,単元の前半では「体ほぐしの運動」の時間を多く設定する工夫を行った。
また,児童一人一人が持っている力を進んで発揮し,めあてに向かって楽しく活動できるように,マット運動では集団的な動き,跳び箱運動では技の種類や跳び方の難易度による点数化を取り入れた。
3 授業の様子
(1) 3時間目(マット運動の1時間目)
「体ほぐしの運動」として,動物歩きや車のワイパー(腕を支点にして,ワイパーに見立てた脚部を左右に振る)などを行った。集団的な動きは本単元が初めてであったが,意欲的に取り組んでいた。
(2) 11時間目(跳び箱運動の4時間目)
導入の段階で,跳び箱運動のアナロゴンとなる「体ほぐしの運動」を行った。
その中の1つ,「人間ダーツ」(写真は次ページ)は,踏み切り感覚の向上,恐怖心の軽減,着地の安定を目指して考案した運動遊びである。踏み切り板や跳び箱上からジャンプし,マット上のフープなどの的をねらって降りるというものである。