研究紀要第129号 「自ら学び考える力を育成する授業改善に関する研究1」 -027/074page
中学校社会科
生徒の相互交流で社会認識を深める指導
〜クロス・セッションを通して〜
1 研究の趣旨
生徒の社会認識を深めるためには,考える力の育成が基盤となる。生徒に事実を調べさせるだけでなく,それについて「自分はどのように考えるか」を問い続けさせる必要がある。さらに話し合いや討論など他者と交流する活動を導入することによって,その考えは広がり深まっていく。そこで,事実調べで終わってしまったり,発表だけで集団での練り上げが不十分な学習に陥いったりすることがないように,次のようなねらいで授業を実践することにした。
課題解決的な学習において, クロス・セッション ※1 を導入し,グループを組み替え,多様な授業形態を組み合わせることで,生徒一人一人が自分の考えを粘り強く深め,さらには友だちとよりよくかかわり合いながら社会認識を深めていくことができるようにする。 ※1 クロス・セッションとは,意図的にグループを組織し,それを組み替えていくことにより,生徒一人一人が課題を分担し,異なる視点・方法・内容で追究した成果が総合化され,課題を解決していく学習活動である。
2 研究の視点
(1) クロス・セッションに適した単元の選定
(2) 意図的かつ弾力的なグループ編成の工夫
(3) 交流活動(話し合い,討論など)の工夫
3 研究の実際
(1) クロス・セッションに適した単元の選定
クロス・セッションには,生徒が分担しやすい共通課題を設定できる単元や異なる視点や立場から課題を追究し解決できる単元が適している。社会科の場合,調べ学習や話し合い・討論等の学習活動と組み合わせることが有効であると考えられる。
(2) 意図的かつ弾力的なグループ編成の工夫
グループ編成は生徒に任せるのではなく,生徒一人一人の学習意欲,能力,特性,人間関係等を考慮して教師が行う。次の図のように課題を分担し,解決する「学習班」と,同じ課題を調べ追究する「調査班」の2種類のグループを組織し学習を進めた。
なお,第1学年の「アメリカ合衆国」の授業では,この基本型の活動の後,「討論班」を組織し全体討論を行う発展型の授業を実践した。
(3) 交流活動(話し合い,討論など)の工夫
生徒一人一人に自分の考えを持たせる,交流活動のねらいや視点を明確にする,何でも話せる雰囲気をつくることに配慮した。また,交流活動の手法として名札マグネットや KJ法 ※2 を活用した。
※2 KJ法とは,川喜田二郎(かわきたじろう)氏が考案した情報の統合化の技法。情報の共有化や合意の形成など共同作業の指針でもある。
(4) 授業の実際
<1> 第1学年:地理的分野「アメリカ合衆国」
共通課題「アメリカ合衆国は本当に世界のトップリーダーなのだろうか?」のもと, A自然・歴史・文化,B工業力,C農業生産,D経済力・軍事力,Eかかえる問題(人種差別など) の5つの視点から学習班(5〜6人構成)で課題を分担し,クロス・セッションを実施した。調査結果の共有化の後,肯定派・否定派・中立派の3つの立場の討論班をつくり,自分の立場を移動できる自由を認める名札マグネットを活用しながら全体討論を行った。
[否定派:中位生徒の最終的な考え] 経済力があったとしても,量だけで強さが決まるわけではなく,たとえいい所がたくさんあっても,内面的な問題がなくなるまでは,トップリーダーとは言えないと思う。