研究紀要第129号 「自ら学び考える力を育成する授業改善に関する研究1」 -029/074page
高等学校芸術科(音楽)
日本の伝統音楽に親しませるための指導の工夫
〜表現・鑑賞相互の活動を通して〜
1 研究の趣旨
これまでの音楽教育は,どちらかといえば西洋音楽を中心に進められてきたが,これからの国際社会に生きる生徒たちにとっては,日本の伝統音楽も含めた世界の様々な民族の音楽を学習することによって,幅広い音楽観と豊かな感性を持つことが重要である。新学習指導要領においても,「我が国や諸外国の音楽文化についての関心や理解を一層深める表現活動及び鑑賞活動の充実を図る」ことが改善の基本方針に掲げられているが,日本の伝統音楽については,授業で取り上げられる機会は少ない。また,「鑑賞」活動による取り扱いにとどまる場合が多いように思われる。
そこで,演奏や創作などの「表現」活動を取り入れることによって,生徒が日本の伝統音楽に主体的に取り組み,学ぶ楽しさを味わいながら,そのよさについて感じ取ることができるような指導の工夫について研究した。
2 研究の内容と方法
(1) 先行研究,文献等の調査研究
(2) 生徒の実態把握
○ 事前のアンケート調査
(3) 題材の設定と指導計画の作成
○ 伝統音楽を題材にした教材や指導の工夫
○ 「表現」と「鑑賞」相互の学習活動の一体化
(4) 検証授業の実施と考察
○ 授業での生徒の様子と反応の観察
○ 授業後のアンケート調査とまとめ
3 研究の実際
(1) 生徒の実態把握と題材の設定
まず,日本の伝統音楽に対する生徒の実態を把握するために,事前に対象学年である2年生音楽選択者60名に対し,アンケート調査を行った。その結果,地域や家庭で伝統音楽に接する機会は少ないが,興味が「とてもある」「ある」「少しある」と答えた生徒は,意外にも全体で80%にのぼった。また,約70%の生徒が和楽器を学んでみたいと答えた。
そこで,まず生徒に和楽器を使って日本の音に直接触れさせ,伝統音楽と感動的に出会わせたいと考えた。そして,生徒が比較的短時間で演奏を楽しむことができ,創作活動への発展の可能性を秘めている箏を題材に指導計画を作成した。
(2) 検証授業の実際と指導の工夫
<1> 導入における工夫
授業の最初に,箏の優れた構造と音色を感じさせたいと考え,必要な音だけをあらかじめ調弦した箏を二面準備し,「春の海」の出だしの部分を爪をつけずに指1本で弾かせ2人で演奏させた。旋律は,リコーダーで教師が演奏した。生徒は,箏が思ったより簡単に弾けることや,日本的な美しい音色をもった楽器であることを感じ取ることができた。
箏の基礎的な知識について学習した後,2〜3名につき一面の箏を準備した。基本的な奏法については,無味乾燥な技術の習得にならないよう,曲を使いながら学習を進めた。まず,二本の弦に柱を立てさせ,弦を弾くことに慣れさせた後,音を増やし,4つの音によるわらべうた「かごめかごめ」の演奏で,すくい爪などの奏法を体験させた。少ない音でも短時間で曲が弾ける喜びを味わわせることができた。
<2> 展開における工夫
ア 日本の音階による即興創作
箏の基本的な奏法を学習した後は,日本の音階による創作活動へと発展させた。まず,「さくら」の旋律を歌いながら都節音階の5つの音(ミファラシド)を調弦させ,二面一組で4拍間を交互に演奏する問答形式による即興創作を行い,次に4拍をリレー式につないでいく活動を行った。最初は,即座にどの音を使ったらよいか戸惑う姿も見られたが,慣れてくるにつれ,音階のどの音を弾いても日本的な音の流れになることを感じ取り,リズム表現などに即興性を発揮する生徒も見られた。
また,一面の即興に別の即興(五面くらいまで)を次々と重ねていく即興創作を行った。この活動で