研究紀要第129号 「自ら学び考える力を育成する授業改善に関する研究1」 -030/074page
は,即興による意外性とともに,音の重なりによる響きの豊かさを感じさせるねらいがあった。
イ 「さくら」による合奏段物作品の創作
「さくら」の旋律と後弾きの学習後,旋律(本手)を修飾する伴奏パート(替手)を創作する活動を行った。二面一組のグループ(一面2〜3名)で創作し,本手と替手の分担については,相談して途中で交替するようにした。また,演奏者も途中で交替するようにした。そして,最終的にそれぞれのグループごとに創作した「さくら」をつないで演奏し,7つのグループによる合奏段物形式の作品「七段桜」として完成させた。
創作時には,アイデアが思うように浮かばず,「難しい」と感じる生徒の姿が見られたため,その手立てとして,典型的なリズムの「型」をいくつか紹介し,「型」からの借用や発展(変形)が可能であることを示した。また,「さくら」の後弾き(後奏)で学習した掻き爪や割り爪 合わせ爪など箏特有の奏法を使ってみることも例として示した。授業後のアンケートでは,「『型』のサンプルを示したことは創作に役立った」と答えた生徒が多かった。
段物形式についての説明をした後,演奏する順番(段)を確認させた上で,つないで演奏された「七段桜」は予想以上に素晴らしい作品となった。充分に練習する時間がなかったために,途切れてしまう場面もあったが,各段ごとに「さくら」の旋律は,リズムや重なる音の表現などによって,美しく修飾されていた。生徒は,互いの創作を聴き合うことによって,他のグループの「型」の用い方や,奏法の工夫に新たな発見をしていた。
<3> 終末における工夫
作品演奏後に,創作で「型」を用いたことを振り返らせ,伝統音楽や芸能において「型」が重視されていることを紹介した。また,自分たちの生活における「型」にはどのようなものがあるかを考えさせ,伝統音楽以外にも日本の文化に「型」が深く関わっていることに関心を持たせた。
4 研究のまとめ
(1) 成果
○ 箏を使った題材設定で,箏の美しい音色や優れた構造に興味や関心を持たせ,そこから日本の音階や音楽形式を用いた創作活動へと学習を発展させることができた。
○ 創作活動の展開によって,生徒がそれぞれの個性を生かして,主体的に活動する場面を多く設定することができた。
○ それぞれが創作・演奏(表現)したものを聴き合うこと(鑑賞)で,互いの表現の工夫やよさを共有させることができた。
○ 「表現」活動を積極的に取り入れることにより,生徒は学ぶ楽しさを味わいながら,日本の伝統音楽に主体的に取り組み,そのよさに気づくことができた。
(2) 今後の課題
○ 箏の奏法に慣れることと,創作活動に取り組むことの2つの内容を含んでいたために,活動にゆとりを持たせることができなかった。指導計画の作成にあたっては,さらに指導事項の精選や年間指導計画との関連を図る必要がある。
○ 幅広い日本の伝統音楽や芸能から,生徒にそのよさや面白さを感じさせることの出来る教材や題材の選択,提示の方法などについて,さらに深く研究をすすめる必要がある。
<参考文献>
1 草原芳男 編著「やさしく学べる箏入門」全音楽譜出版(平成12年)
2 小泉文夫 著「日本の音」平凡社(平成6年)