研究紀要第130号 「自ら学び自ら考える力を育成する授業改善に関する研究2」 -041/074page
実践研究 4 高等学校理科 生物
1 単元・対象
○ 生物IB「生物体の構造と機能」代謝
探究活動:脱水素酵素のはたらき(4時間)
○ 2年 3クラス 108名
2 研究の概要
本実践では,生徒の興味・関心や意欲を高め,科学的な思考を促すために,TTC(塩化トリフェニルテトラゾリウム)の活用と授業展開の工夫を行った。
(1) 教材と授業展開の工夫
<1> 教材の工夫
これまで,脱水素酵素のはたらきを調べる実験は,ツンベルク管を用いた減圧下におけるメチレンブルーの色の変化で確認することが行われてきた。本研究では,細菌の検査や種子の発芽能力の測定に用いられるTTCの色の変化で確認する方法を用いた。
次の表は,メテレンブルーを用いたこれまでの方法の場合とTTCを用いた場合を比較したものである。
メチレンブルー
TTC
・酵素があると脱色されないため,空気を除かなければならない。 ・酵素があっても,反応するため,空気を除く必要がない。 ・ツンベルク管を用いると操作が複雑である。 ・試験管を用いて実験することができるため,操作が簡単である。 ・組織を破壊しないと脱水素酵素のはたらきを調べることはできない。 ・組織を保ったまま,脱水素酵素のはたらきを調べることができる。 ・水素と結びついて脱色されたメチレンブルーが,酸素の存在下で水素が奪われ青色に戻る。 ・水素と結びついて赤変する。 以上のように,TTCは「簡易に」「空気中で」さらには「生体中で」脱水素酵素のはたらきを調べることができるという利点を持つ。一方,メチレンブルーでは,青色に戻ることで脱水素された水素の存在を確認することができる。
<2> 授業展開の工夫
導入や実験材料として身近な素材を活用することで興味・関心を高めるようにした。また,メチレンブルーとTTCの実験結果を比較させたり,複数の素材から実験の材料を選択して実験に取り組ませたりすることで,実験結果と呼吸,成長とを関連付けて考えるなどの科学的な思考を促すようにした。
(2) 授業における実践
<1> 発芽種子の準備と観察(第1時)
種子の発芽を観察した後,発芽種子をTTC溶液に浸し,染色のようすを観察した。成長が盛んな部位だけが赤く染まることが捉えられた。
生徒は植物の成長と呼吸とを関連付けて考え,TTCを用いた実験に興味・関心を持って主体的に取り組んだ。
<2> メチレンブルーとTTCを指示薬として用いた脱水素酵素のはたらきを確認する実験(第2時)
前時で観察した発芽種子をすりつぶしたものを用いて,結果を予想してからメチレンブルーとTTCによる脱水素酵素のはたらきを確認する実験を行った。生徒は,2つの実験を比較することで,それぞれを用いた場合の特性を理解した。また,メチレンブルーを用いた実験から,呼吸の経路の中で脱水素された水素が受け渡されていくしくみを考えることができた。
<3> 種々の素材を用いた脱水素酵素の検出(第3時)
トリのささみやアサリ,モヤシ,酵母菌など身の回りにある動植物の中から,班ごとに素材を選択し,TTCを用いて脱水素酵素のはたらきを確認する実験を行った。
生徒は,選んだ素材の違いにより実験の手順や方法を工夫したり,前時までの学習と関連付けたりしながら,素材によるTTCの発色の違いを予想して