研究紀要第132号 「「人間関係をつくる力」を育てる指導援助に関する研究」 -067/074page
声の大きさや速さに注意してはっきり話す」に,それぞれ0.6,0.7ポイントの上昇が見られた。
○ これまでの実践を振り返った児童の感想には,「友達と積極的に付き合えるようになった」「友達との接し方が変わってきた」など,行動化や友達関係の広まりに関する好ましい内容が多く見られた。
これらの変容は,自己表出(「学級でのびのびと生活している」調査用紙14(丸囲み数字))が大きく伸びたことに関係が深いと考えられる。
研究協力学級担任の指導実感としては,「固定化されがちな人間関係がオープンになってきた」「“その人はその人”と尊重し,互いを思いやる言動が増えてきた」と述べていた。また,「学級の雰囲気でいいと思うこと」を自由記述(調査用紙13(丸囲み数字))させたところからは,「個性のある人がたくさんいる」のように,よさや違いを認め合う支持的な内容が特に増えていた。
以上の変容を総合すると,自分や友達を肯定的に受け止めるようになるとともに,互いを大切にして積極的に友達とかかわるなど,行動の促進が図られてきたことが分かった。このように,自己肯定感と人とかかわる技能の高まりが,人間関係の拡大や深まりにつながったととらえられ,指導援助プログラムの有効性を確認できた。
4 修正プログラムと活用上の留意点
実施後の反省から,効果をさらに高めるために修正されたプログラムが(資料5)である。その活用に当たっては,以下の点に留意したい。
○ 指導時期としては,人間関係が固定化していない学級編成後や学期・学年のはじめがより効果的である。
○ 各授業は,45分で実施可能なものとして組み立ててあるが,学級の実態に応じて分割して行うことも考えたい。
○ プログラムに示した授業や活動をきっかけとして,他の教育活動と関連付けて指導援助していくことが大切と考える。
○ 児童自身の気付きが行動化を促進するという考えを指導援助の基本としている。そのため,自分の行動や感情について明確にしたり,友達と分かち合ったりする振り返りの場を十分に確保することが大切である。
また,指導援助の方法として活用しているロールプレイについては,前述した気付きの効果を高める上でも以下のことに留意することが大切である。
○ 上手に演技することがねらいではないことを理解させる。
○ 事前にウォーミングアップを取り入れるなど感情表出が図られやすい環境づくりをしておく。
○ 活動をイメージさせるのに必要な時間を確保し,演技は一斉に始めるようにする。
5 研究のまとめ
<成果>
自己肯定感や技能,自己表出などに好ましい変容が見られた。また,友達と積極的にかかわる姿が増えるとともに,学級を支持的(互いのよさや違いを認め合う)ととらえるようになった。身に付けるべき自己肯定感や人とかかわる技能の内容や,活動内容,指導援助の方法が妥当なものであると考えられたことから,プログラムの有効性を確認できた。また,改善点が明らかになり,効果的なプログラムにすることができた。
<課題>
各学校が,全体計画や年間指導計画に位置付け,実践できるように考えていく。また,各学校での実践と反省をもとに,プログラムの一層の改善や充実に生かせるようにする。
<参考文献>
・セルフエスティームの心理学 −自己価値の探究− 遠藤辰雄・井上祥治・蘭千壽(ナカニシヤ出版)
・自尊心の発達と認知行動療法 A・W・ポープ他著,高山 巌監訳(岩崎学術出版社)
・社会的スキルと対人関係 相川 充・津村俊充編(誠信書房)
・社会的スキルの心理学 菊池章夫・堀毛一也編著(川島書店)
・ソーシャル・スキル・トレーニング 渡辺 弥生著(日本文化科学社)
・−素直な自分表現− アサーティプ 岩船展子,渋谷武子(PHPエディターズ・グループ)
・エンカウンターで学級が変わるPart1.2(小,中学校編) 國分 康孝 監修(図書文化)
・福島県教育センター研究紀要 Vol.27〜29