福島県教育センター所報 第2号(S46/1971.8) -009/023page

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ることが特に重要である。もちろん各人、各グループに与えるサンプルは標準的なものが用意されねばならない。サンプルが多様性に富んでいる(組織の点で)場合はその結果もじゅうぶんなものを期待することができず、かえって思考に混乱を招く結果になる。すべての場合について言えるこであるが基本的な事項の指導の場にあってはその特性の顕著なものを準備し、この段階から多面的に発展せせることを心がけねばならない。

 3. サリチル酸フェニルの結晶生成の観察

 火成岩の形成過程、およびその周囲の環境の動的な把握をすることはほとんど不可能である。そのための補助的な手段として、あるいは観察結果にもとづく仮説によって適当なモデルが要求される。


 大1図 サリチル酸フェニルの結晶

a:自然放置による結晶
b:5 Cに冷却した場合の結晶

a:自然放置による結晶<br>
b:5<sup>
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Cに冷却した場合の結晶)

 最近IPSの実験内容が報国され好評を得ているが、この中にサリチル酸を用いた結晶の観察が科学的な立場でのべられている。

 このことを岩石の生成過程を考察するためのモデルとして利用した結果きわめて効果的であるのでのべてみたい。

 現在まで結晶過程の理解のために溶液(硫酸銅溶液など)中より結晶が析出する方法をとりあげていたがここではサリチル酸フェニル(ザロール)などの固体を融解してそれに種々の条件を変えることによって結晶のできる様子の異なることを理解し推論していく方法が特徴的である。

 (1)  準備 :サリチル酸フェニル、シャーレ(2個)、水、氷、温度計、実体顕微鏡、オーバーヘッド、偏光板、アルコールランプ、ビーカー、上皿天秤

 (2)  方法

 a 径9cmのシャーレ2個にそれぞれ1.5gのザロールを入れ、第2図の様にして加熱(融点は43〜44 C位)をし融解する。

 b これをそれぞれマグマの状態のモデルと考える。

 c 次に一方は自然放熱をさせ結晶の晶出をまつ( 深成岩形成のモデル )、他方は急冷させるために、あらかじめ準備した冷水中(氷により必要に応じた温度調整が可能)で放置する( 火山岩形成のモデル )。

 その結果第1図に示したような極端に異なった結晶が得られた、aが自然放熱、bが5 Cの状態での放熱による結晶である。

第2図 サリチル酸フェニルの融解
第2図 サリチル酸フェニルの融解


 (3) 実験結果

 温度条件を変えて12回ほど実験をおこなった。その結果は第3回に示したとおりである。

第3図 サリチル酸フェニルの結晶生成における温度と粒径との関係
第3図 サリチル酸フェニルの結晶生成における温度と粒径との関係


 このことから明らかなように温度を低く保つことによって急冷され結晶の成長がおくれる事がわかる。

 このことはマグマから結晶が晶出する場合に周囲の温度条件の違いが非常に影響することがわかる。しかも第1図bに示したように早期に晶出した結晶は、その集合塊が点在し、いかにも火山岩の斑晶を思わせ、また、終期の結晶は1〜1.5mm径で石基の部分を意味し、全体を通じ斑状組織をある程度モデル化できるものである。

 一方、自然放熱(きおん30 C)の場合は径10mm以上の結晶を形成し、全体を通じ等粒状、完晶質を示している。

 (4) 実験上留意すべきこと

a ザロールを融解する場合第2図のように関接的な加熱によることがよいが、この方法であっても70〜80 C位まで温度をあげると、その後急冷する場合、シャーレの中の結晶が非常に小さく肉眼では判定し難くなる。すなわち、石基、斑晶の区別が不可能になるので融点43 Cを考慮すべきである。

 しかし、この点を逆に利用し、非晶質の岩石の指導も可能である。即ちマグマの極端な冷却のモデルとして意義があるのであらかじめ心得ておく必要がある。

 (5) 観察の方法

 結晶の形成していく動的な現象を連続的に観察させるための方法として筆者の試みた方法を2〜3あげる。

 a 肉眼、ルーペ等による観察

 融解したザロールが結晶する全体的な様子をみるには適当である。しかし個々の結晶の成長を理解するに困難である。

 b 実体顕微鏡による観察

第4図 実体顕微鏡による装置
第4図 実体顕微鏡による装置



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