福島県教育センター所報 第3号(S46/1971.10) -005/025page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

小・中・高教材

関数の定義について

第1研修部   鈴木 広司

はじめに

 「関数」が学校数学で極めて重要な概念であることは,数学教育関係者のすべてが認めることである。しかし関数とはどういうものであるかとの問に対しては,
 1.相伴なって変る量である。
 2.変数Xの式で表わされるもの。
 3.一定の規則に従って変わる数。
 4.グラフにかけるもの。
 5.関係のうちで,特別のもの。
等と,種々様々の見解が聞かれる。また,関数を教材化するにあたって,単に図や表,あるいは式の取扱い方であると認識され,従来の指導は必ずしも十分でなかった。関係の定義そのものも,数学の歴史とともに大きく変化して来た。その意味からも,関数の定義を明確にしておく必要がある。


1.関数概念の変遷

 関数の定義は永い年月と,幾多の変遷を経て,今日の定義が生まれたものである。関数という用語を始めて用いたといわれる Leibniz 以来, Bernoulli ,Euler, Cauchy. などがそれぞれの立場で,関数の概念を規定し数学理論を展開して来た。 Leibniz の用いた関数( function ) の言語的意味は,「ある一つの形態が占める所の位置を決定する働き」を意味しているが,ここでの意義は,位置を決定することにあると見ると, Leibniz の関数概念と一現代化の観点からの関数概念との共通的なものがあると考えられる。関数をまったく新らしい「対応関係」としてとらえたのは Dirichlet である。彼は「ある区間内にある変数 x のおのおのの値に対して,yの値がそれぞれ定まるとき y を x の関数」と定義した。この場合は区間全体で,同一の法則に従ってxに依存する必要もないし,また,その依存関係が数学的な演算で表わされることも必要でないとしている。その後 Cantor の集合論以来,数学の対象は集合であり,1つの集合の内部構造を明らかにすると同時に,2つの集合間の対応関係を究明することが,数学研究の主要な領域となって来た。したがって,関数も,2つの集合間の対応関係をとらえるものとして考えられるようにたり, Cantor は Dirichlet の対応関係よりもより条件を強め,一意対応の規則そのものを関数と定義している。以上が関数概念の変遷の概賂である。


2.関数の定義の取扱い方について

 関数の定義は上に記したように,種々の立場から,歴史的に発展したもので,その解釈は一意的に定まるものではない。教育上は,数学的には正しいとしても,飛躍的に抽象性の高い定義をとるべきでなく,つねに児童・生徒の発達段階を考慮して,決定すべきものである。
 従来の教科書での定義は,「従属変数」そのものを関数と定義する立場であるが,現代的には「対応の規則」を関数と定義する。この両者の関連について考えてみる。従前の教科書では,まず具体的な例から関数を定義するのが通例である。
 毎時Akmの速さで,走った時間を x とすると,その時の走った距離は

  y = ax ・・・・・・ (1)

という関係が成り立つ。このような例から,

二つの変数 x ,y の間の関係を示すもので,変数 x の値が定まると,それに対応する y の値が定まる。このような関係があるとき, y は x の関数であるという。
 ・・・ (

 この定義は,従属変数 y を関数と定義し,定義域,値城とも“数”の範囲を出ない。そこで ( I ) の定義を集合の概念を用いて整理してみる。
 上の (1) の式では
  x のとりうる値の集合 X = { x|x > 0 }
  y のとりうる値の集合 Y = { y|y > 0 }

であり, 式 y = a x は,集合 X の元から,集合 Y の元 y がどうして決まるか,その決まり方を表わしているものと見られる。即ち,集合 X の元から,集合 Y の元への「対応の規則」の規則を与えるものである。従って,関数の機能は,この規則にあるのであって,y即ち従属変数ではない。y は便宜上, ax をまとめたものとしての意味しか持たないと考えるべきである。またX,Yは集合である。 Cantor の言を借りるならば,集合の元は「われわれの思惟の対象物」であればなんでもよいのである。したがって, ( I ) の定義のように,集合 X ,Y の元 x ,y は "数" のみでなくてよい。即ち,集合の考えで関数を定義するならば,集合と集合との元の間の関係だけになってしまう。このように集合の考えを用いて,関数を定義すると


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育センターに帰属します。