福島県教育センター所報 第4号(S46/1971.12) -002/025page
教育内容・方法に関する研究,資料提供
―小・中・高,教材研究を中心として―
高校教材
溶解熱の測定と指導
―溶煤と溶質の相互作用―
第2研修部 大和田 寅弥
溶解熱の測定は小・中・高を通しておこなわれているが,溶媒中に溶質粒子が分散する現象を溶解であるという簡単な考え方(モデル)だけでは,溶解熱に正・負があることなどを説明できない。また,新指導要領では,分子間力,水素結合なども取り扱うようになった。高校では,溶解には溶媒粒子と溶質粒子の相互作用がともなうこと,相互作用の大小は溶媒や溶質の物質構造にかかわることなどを,溶解熱や液体どうしを混合した際の温度変化などで埋解させる必要があろう。
1. 結晶水の有無と溶解熱の関係
(1) ねらい
イオン結晶を水に溶かしたときの溶解熱と結晶水の関係を調べ,水とイオンの間に,相互作用があることを気づかせる。
(2) 測定方法
結晶水を持った炭酸ナトリウム,硫酸ナトリウム,硫酸銅とそれぞれの無水物各2.0gを発泡スチロールのコップにとった水50mlに溶かし,水温の変化を1/5°または1/10°温度計で測る。かきまぜは温度計でおこなう。大きな結晶はあらかじめくだいておく。
(3) 測定例
表1 各2.0gを水50 mlに溶解したときの比較
結晶の種類 水温の変化 結晶の種類 水温の変化 Na 2 CO 3 ・10H 2 O −2.2° Na 2 CO 3 +1.9° Na 2 SO 4 ・10H 2 O −2.0° Na 2 SO 4 +0.3° CuSO 4 ・5H 2 O −0.4° CuSO 4 +3.9° (4) 測定後の指導
[1] 結晶している粒子をバラバラにするにはエネルギーが必要なのに,無水物を溶解すると逆に熱(エネルギー)を放出するのはなぜかを考えさせる。
[2] 粉末状の無水物を水に入れた瞬間に固まってしまうこと,結晶水を持ったものの溶解では発熱しないこと,などから,無水物の場合には水と溶質の間に結合が起こり,その際にエネルギーを放出するのではないか,という考えを引っぱり出す。
[3] 結晶水を持ったものから結晶水を除くと,溶解熱はどうなるだろうかを討議させ,実験で確かめさせる。
<測定例>
Na 2 CO 3 ・10H 2 O,Na 2 SO 4 ・10H 2 O約10gをカセロール(柄のついた蒸発ざら)にとり,アルコールランプの炎で加熱して水分を蒸発させる。水分が減ってピチピチはねだしたときは加熱を弱める。じゅうぶん水分を除いて冷却し,乳鉢でくだいてから,溶解熱を測る。
表2 各2.0gを水50〃に溶解したときの温度変化
試料 水温の変化 Na 2 CO 3 ・10H Oから水分を除いたもの +2.1° Na 2 SO 4 ・10H 2 Oから水分を除いたもの +0.3°
無水物を溶解した場合とほぼ一致する。
[4] 「無水物を水に溶解した場合は水との結合が生じて発熱する。結晶水を持つものは水と結合しないので発熱しない。」という考え方が[3]の測定から出てくるが,この考え方を一般化しても良いかどうかを討議させる。
食塩の例などから一般化できないことを確認し,より定量的な測定の必要性を認めさせ,次に進む。2. 水とイオン間の相互作用の大小
(1) ねらい
水とイオン間の相互作用の大小が,イオンの構造(大きさや電荷量)と関係があることを理解させる。
(2) 塩化物の溶解熱の測定
塩化物各種の無水物0.01〜0.05モルを,発泡スチロールコップにとった水100mlに溶かし,1/10°温度計で水温の変化を測定する。
表3 塩化物の溶解熱測定例(水100mlに溶解)
塩化物 試料の量 モル数 水温の変化 溶解熱 測定値 文献値 LiCl 2.12g 0.05モル +4.2゜ +8.4kcal/モル +8.5kcal/モル NaCl 2.92〃 〃 〃 −0.5゜ −1 〃 −0.93 〃 KCl 3.73〃 〃 〃 −2.1゜ −4.2 〃 −4.1 〃 MgCl 2 0.95g 0.01モル +3.7゜ +37 〃 +37.1 〃 CaCl 2 1.22〃 0.02〃 +3.8゜ +19 〃 +19.8 〃
表3では,溶液の比熱を1,コップの熱容量を0として計算している。発熱の場合を正で表わす。相互作用の大きいCaCl 2 やMgCl 2 の場合は,水に入れた瞬間ジューと音をたてて溶けるのが印象的である。