福島県教育センター所報 第5号(S47/1972.3) -021/025page
以上と定めた39年7月前後に編集された各校の沿革誌に大きな影響を与えている。さらに,45年に制定される訓令第1号の規定にきわめて類似している点で注目されるのである。
40年10月「郡視学会指示事項」(郡視学会指示及講演綴)では,沿革誌に関係する基礎資料としての調査統計,諸記録の整理,保存を「教員ノ適当ナル分担法ヲ設ケ,遺憾ナク整理ノ実ヲ挙ゲシムル」よう指示している。その後,「郡視学・市書記会議」(45年1月,「福島県教育」28巻2号)の協議題の中に「県訓令第48号(明治39年7月24日)に於ける小学校諸表簿整理に関する件」があり,各郡の実情報告と,県として統一する記載項目(とくに沿革誌,郷土誌,学校日誌)が審議の中心であったと思われる。翌2月,各郡で小学校長会が開催されているが,安達郡小学校長会(45年2月22,23日安達郡衙)を例にあげると「本郡小学校諸表簿整理に関する件」での2日間にわたる会議は,「記載スベキ重要事項」の説明と法改正にともなう現場の対応が質議の中心として展開されているからである。(前出誌,28巻3号)
県訓令第19号(45年4月26日)により,学校沿革誌,郷土誌は永久保存(第1種)とし,学校沿革誌と日誌に記載する重要事項が明示されたのである。前者の項目をあげると次のようになっている。
1 御影及教育ニ関スル勅語謄本拝戴ノ年月日
2 学校創立ノ年月日
3 学校名称及位置ノ変更
4 校舎校地ノ異動
5 学区ノ分合及通学区域ノ変更
6 児童入学退学修業学習及卒業者数
7 職員及学校管理者並学務委員ノ異動
8 学校ニ功労アリタル者ノ事蹟
9 小学校ニ関スル法規及内規ノ制定改廃等摘要
10 学校ニ関スル歳出予算決算並資産
11 毎年度教育上ニ於ケル施設経営及其ノ成績
以上が「記載スヘキ重要事項」として規定されたものである。沿革誌には,史料的価値に非常な格差があるといわれるが,学校の表簿は「暗夜ヲ照ラス如キモノ」として,記載者である学校長の力量・人物が判定できるとする考えは強かった。項目は同一であっても,記事,編年,その折衷型とあり,その人の裁量によって内容には大きなへだたりを生ずる。
6. 教育品展覧会にみる学校沿革誌
学芸の奨励,教育事業の拡張をはかるとともに,学校に対する理解を深めさせる意図のもとに教育品展覧会が開催された。生徒の成績品,学校(教師)の調査研究物,参考品などを一定の期間展示し父兄・教育関係者・一般の人々に公開したものである。「河沼郡教育品展寛会規則」(25年5月14日「教育報知」第315号)は,17か条からなる細則で,その第4条に「学事に関する諸表簿類」がある。これに類した規定は各郡の規則に見られ,学校沿革誌は,「表簿之部」あるいは「管理其他に関するもの」の分野に出品し,審査されたのである。
「信夫部会教育品展覧会成績(35年3月福島教育第85号)の報告によれば「沿革誌は項目の適否,記載の精粗,実効の有無を審査の方針として,各校提出のものにつき取調べたり」と述べている。(各郡視学の報告(36年学第12号県庁文書)では,信夫郡は伊達・安積の両郡とならびきわめてよく整備されている旨の報告になっている。),項目の分類,記述内容ともまだまだ不十分だとしてその批点を次のように指摘している。
1 項目の分類に秩序なし。たとえば「沿革の大要」の項目に「雑件」を記載せるが如し。
2 要項の記入に脱漏の点あり。たとえば設備,勅語騰本下附年月,教育費決算額,学校巡視の件等の記入を欠けるもの多し。(以下略) 石城郡教育品展覧会の「審査報告書」(44年4月福島県教育第27号)で審査長(県視学志賀兼四郎)は,「学校沿革誌の如きは開設の始めより今日に至るまで漏れなく記録してあるものは極めて少なきは遺憾とする所なり」と述べている。
出品された学校沿革誌の中には,教育法規全文,卒業生氏名あるいは奨励品受領者氏名等をたんねんに記載して大半を占めたもの,日誌の転写程度のもの,統計・比較表の粗雑・断続などの傾向は各郡に共通する問題点であった。しかし,こうした展覧会を通じ,各項目の分類が正確になリ,記載事件の性質によって詳密・簡単にするなど各校が改良に熱意を示し,学校沿革誌の整備,充実に大きな役割を果たしたといえよう。なかには出品するため,新たに編集に着手したものの以前の沿革誌の記載内容を部分的に選択抜粋し,転載ずみ即不要として処理または散逸してしまったのは,24年以前に編集されたものに多い。
7. 特色ある学校沿革誌
県教育史編集のための基礎史料調査として,県内小学校(60校)の学校沿革誌を調査したが,下紀のような記載内容のものは現在,きわめて史料的価値の高い貴重なものと考えられる。
(1) 当時の教育行政を知るに必要な通達文が,そのまま筆写され残されているもの。(例,若松県布達,教則