福島県教育センター所報ふくしま No.7(S47/1972.8) -003/025page
根幹(原理原則)をもって,転移する能力を教育するよう,教材を分析し,表現力と創造性の育成に向かって組み立てることである。
音楽は内容といい,素材といいあまりにも膨大すぎる。この内容と素材の精選をする段階に直面しているといってよい。
(3) 教育機器の活用をはかること。
授業を行なうにあたり,1時間1時間を濃度化し効率をはかるためには当然教育磯器の活用をはからなければならない。
2. 音楽科の学習システム化
創造性を育成し,表現カをたかめるための音楽教育をするには,教材の構造化はかることにあるが,それには先ず音楽科の学習システム化をはかる必要がある。それはC図のように,手のシステムのように音楽科のシステム化を図ることで,手が音楽とすると,親指がメロデー・人差指がハーモニー・中指がリズム・薬指が形式(様式)・小指が音色と,音楽の要素がそれぞれ部分相互の間に機能や役割りの差があるが,この各指が統合されて,原理原則をつかむという考えにたつことである。
3. 音楽の原理原則
(1) 音楽の原理原則をどこに求めるか
このことが,学習指導の改善をはかる大きなポイントである。
音楽の原理原則とは音楽の要素をいうのでなく,音楽の本質を指すのであって,この本質を見極めるにはいろいろ学説があるが,人間の本質と音楽の結びつきについて次の2つの面から見極めることができる。
(2) 大脳生理学から
人間の本能として群集欲があること,この群集欲と人間としてよりよく生きるという心のはたらきから,群集に凝集する生活の知恵のあらわれとして生まれたのが民謡である。
(3) 比較音楽説から
世界の民族のもつ民謡を研究比較し,音楽の起源を探る学説である。この学説によると,民謡はその民族の生き続けてきた社会生活の場に根をおろし,大地と太陽の恵みをうけて,人間のよりよく生きぬこうとする生活の知恵の表われであるといっている。また「創造するのは作曲者でない,民衆こそ創造者である。作曲者はただ書き止め加工するだけだ」ともいっている。
この2つの学説から音楽の本質は人間の本質から生まれでた民謡に求めることで,吾々音楽教育者は世界の民謡に着目する必要があろう。この民謡の精神がいろいろの形となって現代に未来に生き続けているのが民族音楽である。したがって音楽の原理原則はこの民族音楽を分析し精選することによって求めるべきである。
(4) 文化史精神史から
小・中・高の取り扱う教材は,ルネサンスから現代まで約400年の問にできあがったものであるが,いかなる名曲であろうとも,人間性の育成の目標により,とりあげとり扱うべきであるから,あくまでも芸術性の高いものをとりあげなければならない。ここで注意すべきことは,芸術性の高いものを有名曲とみないことである。即ち芸術性の高い曲とは,その民族性とその時代の文化精神史を背景として音楽の要素により,自然の美の表現に作曲者がベストをつくし,むだなく磨かれ集大成されたものをいうもので,したがってこれらの曲を与えるときはその芸術の心はその背景の文化であることから,文化史の心をとりあげ,その心を焦点化してその焦点に生徒の心を衝き当てることにより音楽の本質にアプローチすることによってその曲の心を理解させることである。
要約すると,音楽の原理原則は,民族音楽の心と文化史の心にあるということである。
4. 構造化
構造化とは,教科の素材を精選し,何が根幹で,何が枝葉であるかをきめ,論理的に系統的に配列し,その根幹(原理原則)をもって転移する能力を教育するよう教材を分析し,表現カ・創造性の育成に向かって組みたてることである。
このことはB図のように,根は創造性と美的情操の育成であり,その創造性と美的情操の根から地上に表われているのが幹であるとするならば,その幹は当然民族音楽であり文化史の精神である。その幹の上に音楽の基礎が位置し,そこからの枝として,歌唱・器楽・創作・鑑賞とみるべきである。
(1) 民族音楽の根幹化
人間の本質から生まれた民族音楽を構造化の根幹とするために分析をすると,まず民族音楽とは人間の生き続けてきた社会生活の場に根をおろし生まれ育った音楽と,その有機的結合の舞踊であることから,教材として各国の民謡(吾が国の民謡・わらべうた)と舞曲がある。
民族音楽を教材化するのに見逃がすことのできないものに形式がある。それは民謡はほとんど小3部形式であり,舞曲は複合3部形式であることから,この形式を根幹化すること。
(ア) 民謡の教材構造化
民謡を構造化するに,つぎの2つの面から行なう必要がある。
1つは各民族の民謡をその民族の民族性と社会的歴史的,文化的事実との相互作用の考察をすること。
2つめは各民族の民謡の特質(リズム・メロデ