福島県教育センター所報ふくしま No.7(S47/1972.8) -010/025page
性,筋力,柔軟性など)にささえられているが「運動の技術を身につけるための練習は,右図に示したとおり,逆に運動能力や要素へ影響するものであって,この三者は,循環して相互に影響しあうものである。このような意味から,運動技能の評価は,基礎的運動能力,体格,体力との相互関係を無視することはできたい。
運動技能 →
←基礎的運動能力 →
←要 素 2 学校体育の教材は,体操,スポーツ(陸上・器械運動など),ダンスたどの領域に分けられ,極言すれば体操は体カを高めるもの,スポーツは運動技能を身につけ楽しむもの,ダンスは創造的活動を楽しむものといえるのでそれぞれの領域ごとに性格の違った技能が存在する。
3 運動技能は,個人技能と集団技能に分けることができる。陸上競技や器械運動では個人技能が中心を占め,ボール運動(球技)では,その個人技能に,さらに集団技能が加わってくる。さらに,格技にみられるような対人技能をもあげることができよう。一般に個人技能は測定が容易であり,評価も容易であるが,集団技能にたると測定が困難なものが多い。
4 また運動技能を,個人や集団としての基本技能と応用技能としてとらえることもできる。球技にはサーブやシュートなどのように直接に得点に結びつき,それとして重要な個人的基木技能が含まれているが,球技では味方や相手のメンバーの動きに応じ,あるいはその動きを洞察して適切な位置に移動して,ボールをバスしたり,ドリブルしたり,トスしたり,シュートしたりすることが求められるので,人やボールの方向,速さ,強さ,距離などのすばやい正確な知覚が重要である。このような状況の変化の知覚的能力を無視してバスやドリブルの個人的基本技能を評価しても,適切な評価がなされたとはいえない。このためにも技能の指導でも集団的技能が重視されるのである。事態に即応した応用技能の評価,ここに焦点があてられなければならない。
5 技能には合理的,科学的要素が含まれている。ところが,実際には,体格や体力との関係において,フォームはよいが記録はよくないという場合がある。このような場合,評価の対象はいずれかという問題があるが,それは評価の目的によって決まるのである。このように,運動技能は,教材によってその性質を異にするし,いくつかのとらえ方がある。
(2) 運動技能の評価とスキル・テスト
運動技能の評価の具体的方法には,到達基準による方法,チェックリストを作り観察する方法,進度表を作り評価の観点や評価尺度におき換えて評価の資料とする方法などあげられる。評価を客観的に,数量化するためにスキル・テスト(熟練度をみるテスト)が用いられる。陸上競技のような個人種目の技能の評価については比較的問題が少ないが,対人的種目や球技のような集団的種目のスキル・テストについては,検討を加えることが必要である。しかし陸上競技のような個人種目の記録をそのまま評価するのは問題がある。最近到達したレベルを問題にするよりも,そこに至るまでに傾注した努力の度合が重視されてきた。そこで努カ点を重視した評価方法を考えねばならない。例えば百米疾走において,13.4秒から0.1秒短縮して13.3秒にするのに要する努力と12.4秒から0.1秒短縮して12.3秒にするには共にO.1秒の短縮ではあるが同じ努カとはいえないだろう。すなわち後者の場合がより一層努力しなければならないといえる。だから前者のO.1秒の向上に対して与える得点を仮に3点とすれば後者のそれに対しては,5点を与えるようにしなけば征らない。また技能の低い子でも努力し向上がいちじるしい場合は得点が高くなる。このような考えのもとに記録に得点を与えていく高記録高得点方式,すなわち努力の度合に応じた得点形式を考えることが必要になるだろう。
また従来よく用いられているバレーボール,バスケットボール,サッカーなどのスキル・テストはそれぞれの運動技能を構成技能に分析し,それを時間,距離,回数たどによって測定して,その合計得点によって評価しようとするものが多い。球技などの集団的種目の評価は究極的には個人の技能についてなされるものとはいえ,実際に評価されなければならないのは,その個人の技能が集団的場面で,どのように発揮されるか,ということでなければならない。バスケットポールやサッカーにおけるバスは,相手の妨害を排除してボールを受け渡しすることであり,したがって,そのスキル・テストでは,このようなバスの技能を測定しなければならない。またボールを操作する能力ばかりでなく,ボールを持たない人が,どんな動きをするようになったかが評価されなければならない。このように考えてくると従来のスキル・テストでそのまま使えるシュートやサーブのような技能以外の多くは,各運動技能の構造的特性に基づいて新しい項目を作ったり,作り換えたりすることが必要になってくる。集団の中における個人の技能を評価するのは多くの困難が伴うが私たちはこのような評価を進めるべきであろう。
各運動種目の評価の具体的な方法については稿を改めて書きたい。運動技能評価の一つの観点としてとらえていただければ'幸いである。
参考文献教育内容の現代化 広岡亮蔵
体育評価 橋本性一
評価の諸問題 松田岩男
教育評価 日本標準テスト研究会