福島県教育センター所報ふくしま No.7(S47/1972.8) -014/025page
高校教材
突然変異とその統計的処理について
第2研修部 大原正男
1. はじめに
高校生物で変異を実験的に取扱う場合,禾木科植物の小穂の数とか菊科の舌状花の数で個体変異を使うことが多く,突然変異は方向性や期間などの難点もあり取扱い例が少ない。そこでコルヒチンによる人工突然変異は古くから多くの学者によって極めて多数の植物について倍数体育成例およびその特性などについて,すでに報告されているが,ここで身近にあるダイコン種子を用いてコルヒチン処理を試み,変異体を検討し,また近年生物教育の現代化に伴って,探究の手法として数的な取扱いが重視されるように在ってきているので生物統計的処理の場として取り上げてみた。
2. コルヒチンについて
コルヒチンはユリ科植物のイヌサフラン (Co1chicum autumnaIe L=ヨーロッパおよび北アフリカの湿原特に,黒海の東端の colchis 地方に多数自生) の種子や球茎などから抽出される一種のアルカロイドで,それぞれの乾量の約O.4%, O.2%含まれている。製品は黄色の粉末または結晶で,水,アルコール,クロロフォルムなどによく溶け,医薬用として用いられたこともあるといわれる強い苦味のある有毒物である日処理は主に水溶液にして行なう。コルヒチンの最も重要な作用は核分裂中の細胞に紡錐体形成をさまたげ,しかも染色体は縦裂し,同時に隔膜の形成が見られないため染色体数が倍加することで,広く農園芸に利用されている。
コルヒチン処理は種子や芽などの核分裂の旺盛な組織に行なう。方法としては,
・浸漬法……a. 種子処理 種子をO.01〜0.5%コルヒチン水浴液に1〜3日浸し,水洗して播種,発根前に処理が終わるようにする。 b. 植物体処理 曲げ易い植物体の生長点の部分を浸漬する。
・滴下法……幼植物の頂芽や腋芽にコルヒチン水浴液をピペットで1日1〜2回数日間続けて滴下処理をする。根をいためたいのと滴下回数などを加減できる利点がある。単子葉植物には応用し難い。
・その他……ラノリンや寒天溶液にコルヒチンを混和して生長点に塗布する方法や,ラノリンとコルヒチン混和液を撒布する方法もある。
3. 実験の方法と結果
ダイコン種子を材料にして浸漬法で変異体(4倍体)と普通体(2倍体)を比較する。
(1) 倍数体の出現率
ダイコン種子をガーゼに包みO.05%と0.5%コルヒチン水溶液に24時間浸し,水洗して湿らしたろ紙をしいたシャーレに列べ25℃に保ち,発芽したものについて調べた。
データ1. コルヒチン濃度 4倍体植物数 2倍体植物数 合計 0.5% 89 51 140 0.05% 85 67 152 計 174 118 292 (2) 種子発芽におよぼす影響
4倍体(O.5%コルヒチン処理により生じた倍数体)と2倍体(水処理)の種子200粒について発芽の様子をしらべた。
データ2. 発 芽 種 子 数 日数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 計 4倍数 0 0 3 17 41 60 24 11 1 0 157 2倍数 0 17 59 73 37 9 0 0 0 0 195