福島県教育センター所報ふくしま No.13(S48/1973.11) -003/026page
限界をもっているか,したがって,次に何を探究していかなくてはならないか,残された問題を明らかにすることにあるのではなかろうか。そこから,次の探究が始まるといわれているからである。
◎探究学習における単元構成
探究学習の特色は,一つは「中心概念の形成」,一つは「情報処理能力の育成」という二大目標の達成をめざす学習であるといわれる。したがって,探究学習の単元構成に当たっては,この二大目標を達成するにはどうすればよいかということに焦点を合わせ,指導計画を立案していくことが何よりもだいじといえよう。
そこで,探究学習の単元構成では,まず,その単元で形成させたい「中心概念」は何かということを明らかにすることが先決である。そのため,この「中心板念」というのは,従来の「単元の目標」とどうちがうのか,また,子どもたちに形成させたい中心概念を,どのような原則で抽出してきたらよいかを,はっきり押えなければなるまい。
従来の「単元の目標」を見ると,大部分が「…‥を理解させる」とか,「……に気づかせる」といった表現をとっている.これからでもわかるように,現実の社会科学習は,なんといっても理解中心となっているといえよう。探究学習は,その点において,「理解させる」というより,「形成させる」ということが,まず大きく違う点である。それと共に,その理解させようとする内容そのものが大いに違うということである。
もちろん,従来の社会科学習でも,この点を反省し,特殊の事例を学習させたあと,「一般化を図る」という努力がなされている。これは,ある事例を学習したあと,その事例から何を学びとることがだいじか,その社会的意義を考えさせるとか,あるいは,いくつかの事例を通して,その共通点をとらえさせていくといった指導がなされるようになってきたのである。これは,たんなる事実認織だけに終わっている学習にくらべれば一段と意味のある学習といえよう。探究学習やいう「中心概念」とは,この「一般化」させる中味に関することといってもよいといわれている。
すなわち,「中心概念」とは,この社会事象を意味づけるカを養うことといってもよい。しかし,中心概念の形成という場合は,たんに社会的な意味を考える能力を育てるだけでは,まだ不じゅうぶんなのである。「中心概念」と呼ばれる内容に価いする意味づけをさせることが必要なのである。
社会科は,社会についての見方や考え方を育てる教科であるのだから,ただ社会事象を,事実として認識させるのでなく,その事象を生じさせている背景には,人間のどのような意図が内在しているのか,その意味を追究し,そこに浮かび上がってきたものであることが中心概念抽出の第1の原則といわれる。
つぎに,社会科の学習時間には限度があるのであるから,たとえ人間の活動の社会的意味を考えさせるものであっても,そこには,おのずから内容の選抜が必要である。そこで,その内容を選択する原則として,それは,社会現象の根底にある社会的な本質に迫る内容であり,そこで発見させたものが,将来の子どもたちにとって,社会の本質を考究する上で,おおいに役立つような基本的内容であるといわれる。
その社会の本質に迫る基本的内容として,次のようなことがらが考えられる。その1つは,社会の基本的な傾向を示す内容である。社会がどのような理念の実現を目ざして動いているか,その方向を示す内容である。その2は,それが社会の中で,どんな役割を果たしているか,つまり社会的な機能を説明したものである。3つめは,そのものが,ほかのものと本質的に類別される社会的な性格を説明したものであるといわれる。
第3の原則としてあげられることは,その中心概念とは.学問体系や社会諸科学から生み出た概念と深い関係を持っているということである。もしそうでないとすれば,前述の「社会の本質に迫る基本的内容」などとは言えないものとなってしまう。しかし,探究学習で形成させたい中心概念は,大人の獲得した概念を,子どもたちに翻訳して与えたり,理解させたりするのではない。どこまでも,子どもの中に成熟した概念を使って,新しい概念を,子ども自身に形成させようとするものである。
したがって,この中心概念の形成は,どこまでも,子どもたちが学習以前に持っている社会現象に対する1つの解釈―予想・仮説―を出発点にし,その子なりに解釈のしきれない部分を,いままで気づかなかった尺度で見直させたり,いままでの解釈のしかたの足りなさや,あやまりに気づかせたりしながら,社会現象に対するさらに深まった意味づけができるようにし,その過程の中で,その子なりの中心概念の形成を図ろうとしているのである。
それゆえに,探究学習では,教師の注入教育を避け,探究問題の設定―> 仮説・予想の設定―> 検証―> 結論の吟味の四段階の学習過程をたどるようにしている。また,その指導計画の作成に当たっては,それまでの学習のつみ上げの実態をとらえ子どものレベルに合わせて,その単元で形成させる中心概念の内容を決定していくことになる。
◎−小単元−中心概念
探究学習では,ある探究問題の設定から始まって,最後の結論の吟味に至るひとまとまりの学習過程を通して,やっと1つの中心概念が形成されることになる。もし,そのひとまとまりの学習の中で,複数の中心概念を形成させるとなると,はじめの探究問題も複数となり,それぞれについて予想や仮説をたて,また,それぞれについて別々に情報資料を集めて検証していくことになる。このようなことは実際には無理なことで,子どもたちが追求する問題は,なんといっても1つにしぼること