福島県教育センター所報ふくしま No.13(S48/1973.11) -008/026page
高等学校における酸・塩基の指導について
第2研修部 佐 久 間 善 克
小学校・中学校・高等学校をとおして酸・塩基の指導は大切な事項の一つになっている。それらの指導を段階的に考えてみると次のようになる。
- 小学校
- この段階では操作的定義にとどまっている。
- 5年
- 水溶液の性質。
- 水溶液には,酸性・アルカリ性・中性のものがあること …‥リトマス紙・味による分類
- 6年
- 違う種類の水溶液を混ぜ合わせること。
- 酸性の水溶液とアルカリ性の水溶液を混ぜ合わせると,中和して別のものができる。
- 中学校
- ここでは分類の立場で,酸・塩基をアレニウスの概念的定義に到達している。
- 3年
- 「物質と電気」中の「イオンの反応」
- 酸とアルカリの特性は,イオンのモデルで説明できること。
- 酸とアルカリとの反応によって,水と塩の水溶液が得られること。
- 水溶液中で電離してH + となる水素原子をもつ化合物を酸と定義し,酸の共通の性質はH + があるためである。
- 水に溶けてOH - を生じるような水酸基をもつ化合物を塩基といい,NaOH. KOH. Ba(OH) 2 . Ca(OH) 2 などを例示している。
- 中和は,H + とOH - から水ができる反応と定義している。
- 高等学校
- 「酸と塩基に関するアレニウスの定義を発展させて,水素陽イオンの授受としての酸・塩基反応も理解させる。この場合に,定義を拡張する必要性と利点を思考させるような指導が望ましい」と説明されている。
- はっきりとプレンステツド・ロウリーの定義といっていないが,当然そこまで指導を拡張する必要がある。
高等学校において,探究的に酸・塩基の定義を拡張するには,どのような指導順序で,どのような実験を取り入れていくべきか,次にその一例を示しておきたい。
1 酸性を示す粒子の確認
アレテウスの定義では,水中でという条件はあっても溶媒としての水の働きは考えられていないので,酸の分子が溶媒の水と反応して,初めて酸性を示すことを理解させなければならない。
- 実験1
- 陽電荷をもつ粒子であることの確認
- 0.1M-Na 2 SO 4 水液液に数滴のメチルオレンジを入れ,ロ紙に浸み込ませる。この中央にIM-HClにつけた木綿糸をのせ,両端に数百Vの電圧をかけ粒子の移動をみる。
- 実験2
- 乾操した塩化水素を2本の試験管にとり,栓をしておく。2本の温度計の水銀留の部分に脱脂綿をまきつける。一方の脱脂綿にはメチルオレンジ水溶液,他方にはトルエンと微量のメチルオレンジ(M.O.)粉末を混ぜたものをつける。別々の試験管に入れ温度変化を読む。
- トルエンの方は,次に水につけ温度変化を読む。
水の方は,温度変化が大きく,明らかに化学変化が起っていることがわかる。また,その時M.O.の色の変化から酸性を示す粒子の生成がわかる。トルエンの方は温度変化,M.O.の変色も示さない。次に,水に入れてから僅かの温度上昇とM.O.の酸性色を示すことが観察できる。有機溶媒に溶けた塩化水素には,酸性を示す粒子が存在しないことがわかる。水と接触してM.O.を変化させること。その時激しい発熱反応であること。実験1の結果酸性を示す粒子は正電荷を持っていること,などを考えあわせれば,水の働きが当然考えられ,塩化水素と水が反応した結果正電荷を持つ,酸性を示す粒子の生成が推論される。
水との反応 HCl+H 2 0 H 3 O + +Cl - 即ち,溶媒との化学反応の結果,水和した陽子(ヒドロニウムイオン)が生成し,酸の性質は,このイオンの性質であることを理解させる。水との反応を考えさせる必要がある。H 3 O + が酸性を示すものとすると,水にH + を与えてH 3 O + をつくるのが酸である,と考えてよい。しかし,一般に水だけでなく,他の溶媒なども考えれば,「酸とは,(他の物質に)水素イオンを与えるものである」と定義しておくように拡張する。
2 伸子移動反応
NaOH,KOHなどのアルカリ性は水渉液中でOH - を出すためである。また,これらは,固体中でもOH - を含んでいる。(溶融塩の通電性から推論される)
- 実験3
- 分子の中にOH - を持たないNH 3 やNa 3 CO 3 が塩基性を示すことを指示薬で調べ,その理由を考えてみる。
アルカリ性がOH − に基因することから当然OH − の生成を考える。酸の場合と同様に水の作用を考えてみる。