福島県教育センター所報ふくしま No.13(S48/1973.11) -009/026page
NaOH → Na + +OH -
NH 3 +H 2 O NH 3 +OH -
NaOHなどイオン性物質や,NH 3 の分子性物質の水溶液中での電離は,OH − を出すことが共通しており塩基性を示す。前述の酸の定義から考察すれば,H 2 OはNH 3 にH + を与えたり,NH 3 はH + を受けとったことになる。これらの実験事実から次のようにまとめることができる。
「酸とは,H + を放出できる物質であり,塩基とはH + を受け入れることのできる物質である」。すなわち,一組の物質間での陽子(H + )の移動で酸・塩基を考えていく。
HCl + H 2 O H 3 O + Cl -
酸 塩基 酸 塩基
NH 3 + H 3 O NH 4 + OH -
塩基 酸 酸 塩基
次の4つのタイプを考えることができる。
(1) AB+B A - +BH +
(2) AH + +B A+BH +
(3) AH+B A - +BH
(4) AH+B - A 2- +BH +
3 放牧基の相対的な強さ
新しい定義によると,酸(塩基)の強さは,陽子を与えようとする(受けとろうとする)傾向として表わされ,強い酸は陽子を相手に与えようとする強い傾向をもつている。強い塩基は,相手から陽子を受けとろうとする強い傾向をもっているので,次の二つの方法で強弱が決められる。
(1) 競争するプロトリシス(陽子移動)を調べる。
(2) 同じ盤基に対して,二つの異なった酸の陽子を与えようとする傾向を比較する。ふつうは塩基として水を選び,各酸のpHを測定する。
- 実験4
- 次の組み合わせで,気体の発生を確かめ,反応の進む方向から酸の強弱を考える。
- (1) H 2 SO 4 +HSO 3 - H 2 SO 3 +HSO 4 -
- (2) H 2 SO 3 +CH 3 COO - CH 3 COOH+HSO 3 -
- (3) CH 3 COO+HSO 3 - H 2 CO 3 +CH 3 COO -
(1)の反応は,SO 2 が発生する。すなわち反応は左から右へ進み,H 2 SO 4 がHSO 3 - にH + を与えたことになる。H 2 SO 4 はH 2 SO 3 より強い酸である。以下同じように次の順序になる。
H 2 SO 4 > H 2 SO 3 > CH 3 COOH> H 2 CO 3
逆に,塩基性の強さは次の順序になる。
HCO 3 - > CH 3 COO - > HSO 3 - > HSO 4
この結果から,相対的な強さの比較ができるし,酸の強弱は相対的なものであると,とらえさせることが非常に大切なことである。
- 実験5
- 同じ塩基(水)に対して陽子を与えようとする傾向をpHを測定して考える。
- 今年度高校理科講座で実施した結果を示す。
酸
pH
0.01M-HCl 2.12 2.28 0.01M-CH 3 COOH 3.45 3.03 0.01M-NaOH 11.75 11.6 0.01M-NH 3 10.3 10.4 PHの小さい酸ほど,H + を塩基(水)に与える傾向が大きい。(H 3 O + の濃度が大きくなっている)ので強いい酸になる。この場合はHClはCHるCOOHより強酸である。
一プトロン酸の場合,次の平衡が成り立つ。
HA+H 2 O H 3 O + +A +
この平衡定数は次の式で表わされる。
Ka:酸の電離定数
PHが小さいことは,Kaが大きいことを意味するのでKaの大小で酸の強弱が考えられることを導入することも生徒の理解の程度によっては必要なことと思う。ただ強い弱いの説明でなく,相対的な順序として酸・塩基の強さを理解させるようにしなければならない。そこに,両性物質の考えが入ってこなければならない。
酸1 塩基2 酸2 塩基1
H 2 SO 4 + H 2 O H 3 O + + HSO 4 -
HSO 4 - + H 2 O H 3 O + + SO 4 -
この考えが発展すれば,酸・塩基が相対的な概念であることがわかると思う。また,強弱については,それを理論的に取り扱っていく必要がある。
この平衡的考え方は,後述するように,酢酸の平衡点数の測定と発展させることができる。
- 実験6
- CH 3 COONa, NH 4 Cl, NaHCO
, Na 2 CO 3 などの水溶液の液性を調べる。 - CH 3 COO - +H 2 O CH 3 COOH + OH -
- 塩基2 酸1 酸2 塩基1
CH 3 COO - は,水分子から陽子を受けとることができる。CH 3 COO - は,OH - と陽子を受けとる競争をしている。
OH - が強い塩基なのでH + を受けとる割合が大きいので反応は右から左へ進むのが普通である。しかし,CH 3 COO - の塩基性も若干あるのでCH 3 COO - もH + を受けとっている。その結果OH − が多少生成して全体としてアルカリ性を示す。しかもこの反応はいずれか一方に100%進むものでなく,ある点で平衡に達してしまう。
NH 4 + + H 2 O H 3 O + + NH 3
酸1 塩基2 酸2 塩基1
この反応でも,全く同じように考えていく。
従来,塩の加水分解として考えていたことも,できるだけ,酸・塩基反応として考えていくようにしたい。またそうすることが,酸・塩基の統一的な考え方として自然な形だと思う。