福島県教育センター所報ふくしま No.13(S48/1973.11) -014/026page

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学校教育相談における夜尿児の取扱いについて

−行動療法 behavior therapy による矯正法−


研究・相談部   佐 藤 守 男

        

I 夜尿症とは

無意識のうちに一定量以上の排尿,すなわち,失禁を生ずることを遺尿症 enuresis という。覚醒中にこの現象が発生するのを昼間遺尿症 enuresis dinura,夜間睡眠中に発生するものを夜間遺尿症 enuresis nocturna といい,夜間遺尿症を“夜尿症”とか“おねしょう”とよんでいる。

しかし,夜間眠っている間に,本人が無意識のうちにふとんのなかで排尿をしたとしても,年に数回の失禁の場合は夜尿症とはいわず,満3歳以下の乳幼児の夜間失禁も夜尿症とはいわない。したがって,夜尿症を定義する場合には,年齢と頻度の条件を考慮してかからなければならない。

II 夜尿症の発生原田

A 睡眠と夢と夜尿の関係

夜尿症の子どもは,一般に睡眠深度が深いのだろうと考えられてきた。母親が夜尿児を夜間におこす際,なかなか目をさまさないことや,おこしても眠りながら便所にいき,半覚醒のまま無意識に排尿していることなどから,そのように推論されているのだろう。しかし,最近の脳波と睡眠の研究のめざましい発展は,これを全く否定し,睡眠深度と夜尿の因果関係は極めてうすいことを立証している。また,夜尿の際に「火事の夢」をみていて,消火のためにやってきた消防自動車の放水に合わせておねしょうをしてしまったり,便所や野原で排尿している場面の夢をみて本当におねしょうをしてしまったりすることが認められるために,夜尿の原因が夢であろうと判断されてきたのだろう。しかし,これまた脳波と夢の研究から因果関係がうすいことが解明されてきた。

B 夜尿児の身体的発達状態と体質

夜尿児の身体的発達には,目につくような特徴はほとんど見い出せないが,体質的には過敏性のものが多く,夜尿発生の原因の一つと考えられている自律神経の不安定説の裏づけともなっている。このような夜尿症には,精神安定剤の投与が極めて有効であり,治療効果も高いが,薬物の投与は医学的な分野でもあり,適正薬物の使用,適量投与の問題,副作用の問題等が考慮されなければならないので,専門医との相談が必要となる。

C 身体的疾患

尿崩症とか糖尿病によって二次的に夜尿症が発生するし,神経性多飲症も夜尿症を併発させる。また,膀胱炎,膀胱三角部筋の障害が原因となったり,性器の炎症,ぎょう虫寄生,外陰部湿疹などが刺激となって,括約筋の過労を引き起し,夜尿を誘発することもある。その他テンカンの小発作としての夜尿もみのがせないので,教育相談的な矯正を行なう際には,泌尿器科,小児科,神経科の医師の診断をうけ,身体的疾患の有無を確かめた上で矯正指導を行なうことが大切である。

D 心理的要因

乳児期の排尿訓練の失敗 − ぬれたままのおむつに対する条件づけ − が夜尿症を引き起すことも多いが,満一歳から二歳の間の意図的排尿訓練の失敗が,ほとんどの夜尿症児の原因となっている。これは,1 母親の無いもの,2 母親が病弱であって排尿訓練が十分に行なわれなかったもの,3 いわゆる“とし子”の年長児のため排尿の躾をうまく受けることができなかったもの,(退行現象が働いて夜尿が生ずる) 4 としよりっ子で甘い躾をうけたため,正しい排尿習慣が作られなかったもの,5 トイレット・トレーニングを受けるべき時期に病弱であったり,それ以前から病弱であったために甘い躾がなされたものなどが,夜尿児の大半を占めていることからも推論されよう。また,精神発達遅滞が躾の不形成となっている場合もある。したがって,これらの器質疾患が認められない児童・生徒のみを学校教育相談的矯正対秦者と考えるべきである。

E 夜尿の型

夜尿症には,乳児期から引き続いて夜尿がある型と,一度形成された排尿の躾が何らかの原因によってくずれて生じた型がある。排尿訓練の失敗は前者を生み,後者は環境の変化,退行,フラストレーシヲンによって引き


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