福島県教育センター所報ふくしま No.13(S48/1973.11) -015/026page
おこされる夜尿型である。さらに別な角度からの考察をのべれば,「甘え型の夜尿」と「ひねくれ型の夜尿」に大別されよう。甘え型の夜尿の子どもは,いっまでも親に頼り,自立心が欠け,睡眠中に尿意を感じても一人でおきようとはしないものである。このような症例には,あまやかしの環境の改善が急務となる。ひねくれ型の夜尿や孤児院などでみられる不幸型夜尿とは,親や周囲の大人にほうっておかれ,躾らしい躾も受けなかったばかりか,叱責を受けることが多かったため,報復手段として夜尿をし,それが条件づけられて習慣化してしまっているものである。この症例には愛情をともなった躾が最も必要とされるが,いづれにせよ一度発生した夜尿癖は,周囲の環境諸因子と結びつき悪循環を形成しやすいので,必ずしも本来の原因が夜尿の症状の持続の要因として明確に推測されることはまれである。
F 性別による発生頻度
女児に比し男児に夜尿児の発生が多く,7対3か8対2の割合で男子に多い。この発生頻度の差の原因は,男子の排尿構造が自分で排尿することが比較的幼児期より容易であること。男児の排尿禁止の場が女児にくらべて社会的に少なく,どこでも排尿が可能であることなどが我慢をする機会を少なくし,それが排尿の訓練に必要な括約筋のじゅう分な訓練の不足をまねく結果,夜尿の発生が多くなるのだといわれている。
G 疑似夜尿症
睡眠中に意識しないで排尿することを夜尿の定義とすれば,ある程度の意識があるまま排尿をしてしまう症例を疑似夜尿症と呼ぶことができる。目を覚ましたが便所にいくことが恐しい,便所が遠く離れていて一人で行くのがいやであるため,ぐづぐづしているうちにうとうととしてしまい,おもらしするような例がこの型である。疑似夜尿症は,Eでのべた甘え型の夜尿と似ているが,排尿が意識化されているか否かが違いとなっている。
III 夜尿症を引きおこさないための排尿のしつけ
乳幼児に対する排尿のしつけは,できるだけ冬期を避け,一歳前後から始められるのが適切であるとされている。夜間の排尿のしつけ(一般的に乳児の夜間の排尿はほとんどないのが普通である)が必要であるものに対しては,この時期よりやや遅れて昼間の排尿の躾が確立した上で行なうようにするのがよい。乳児の排尿の躾は条件反射によって確立されるものであるが,逆に我々の環境因子によりマイナス方向への条件づけがなされることも多い。それらを考慮すれば,多少の失敗があってもあせったり落胆したりせず,最初からもう一度やりなおすつもりで気ながに行なうようにすることが望ましい。
一・ニ歳児では無理に起こして,泣かせながら排尿させるのは逆効果で,まず昼間の躾を確立させてから徐々に夜間の排尿の躾に移るという長期計画による躾が大切である。躾を急ぐあまり,就床後一,二時間めに強制的に排尿をさせ,膀胱が尿によって満たされないのに夢うつつの状態になれば排尿するという一つの条件反射が完成されてしまうと,これを打破するのに相当長い日数がかかるようになってしまう。このことを考え昼間の排泄の躾がしっかりと確立するまでは,絶対に夜起こして排尿させることをやめ,睡眠をじゅうぶんにとらせ,夜尿に対する恐怖心を引き起こすことがないようにすべきである。
われわれの相談室に来談にみえる夜尿児の多くは,1 継子 2 母親のない子 3 祖母に養育されている子 4 兄弟姉妹の最年長児 5 母親が病弱である子 6 精神発達がやや遅れている子などの子どもが多く,排泄器官の欠陥者はほとんどないことから,夜尿は排泄の躾の失敗が最大の原因になっていることがわかる。
VI 夜尿児の発見方法
夜尿症それ自体は,教育相談の分野でそれ程重大な問題であるとはいえないが,夜尿症によって誘発される劣等感の発生は,健全な心身の発育や学習意欲の阻害となるので,それらの改善は性格の良化,学習意欲の強化と学力の向上につながるため,医学的治療とあいまってぜひ実施されなければならない。したがって,小学校低学年児の学級担任は,自分のクラスの児童の中に夜尿児がいるのかどうかをは握し,矯正治療と教育相談を実施していかなければならない。
発見は握の方法としては,父兄懇談会の面接の際とか,質問紙法による調査を利用するのがよいが,家庭の恥を隠したいという心理が働くので,100パーセントの発見をすることはできない。この欠点を補うためには,教室内で直接児童に口頭で質問するのがよい。この際に注意すべきことは,羞恥心を起こさせずに調査を行なうことである。クラス全員を教室に集め,坐ったまま目を閉じさせ,どんなことがあっても目を開かないよう注意し,その注意が終ったら右手を頭上に上げさせ,頭に手をつけるように教示する.この状態が作られたら,「この中でおねしょうをする人は右手を頭から静かに離して手を上げなさい」と指示すれば,他の児童に気ずかれることなく質問に答えるこが可能となる。
V 矯正を開始する前に
クラスの中に夜尿症児がいることがわかったならば、父兄の協力を得て矯正を開始する。
矯正を開始するにあたっては、夜尿児の泌尿器官に異常がないか、また神経系に異常はないかなどの医学的診断を受けさせ,疾患があればその治療を受けさせるようにすべきである。医学的な疾患がある場合には,精神療法,心理療法を行なっても効果が薄いので,これは絶対