福島県教育センター所報ふくしま No.14(S49/1974.1) -003/022page
近づこうとする追体験の深まりの過程こそ大事にしたいものである。
2.思考活動を重視する指導過程
より深く読むことには,読み手個々の主体的な課題意識を契機として出発する。そして,この課題の解決をめざして,「直観的思考」から「分析的思考ご関係的思考」へとねりあげられていく.そのためには,学習に対する課題意識を明確にし,何のために,何を読みとるのかという自覚をもち,意欲に支えられて取り組むことを前提とした指導過程が考えられなければならない。
(1) 指導過程
(2) 各段階における扱い方
1) 課題をとらえる段階
児童の興味や関心,必要性が根底にあって,学習目標をつかむ段階である。通読のあとで問題意識を明らかにし,文章の中心思想にかかわる問題を学習課題としてつかまえることになる。
2) 予想をたてる段階
作品を読んで直感的思想から,その根拠を文章表現や文章内容から概観し,学習計画をたてることになる。ここでは学習経験が重要な力となる。
3) たしかめ,深める段階
個人または共同でたてた課題をもとに,学習を展開していく段階である。既有の知識や学習方法を駆使して読みを深めるために,この段階で最も主体的,創造的な活動が組織されることになる。
4) 発展する段階
この段階では,学習したことを次の学習や生活に適用する転移力をつけることがたいせつである。確認された問題は,されに次の問題意識へと発展し,他の作品を読むことによって,ものの見方,考え方をひろめることになる。
この指導過程は,常に固定されたものとして一定の方向に向かって進行するものではない。個々の児童が葬持っている生活経験や知識,学習への動機,学級の人間関係,集団思考の質など,学習の展開を支える実態をは握した上で,内面的な深まりをめざす指導過程の研究が必要である。
3.「深く読む段階」におけるとりあげ方の例
深く読み味わうためには,想像の世界を広げ,人物や場面を具象化した受けとめ方をしなければならない。作品と読み手との間に距離をおいた読みでは,描かれ作品世界を深く認識するまでにはいたらない。したがって,表現に即し,書き手の立場に即しながら,読み手が自分の思考を参加させることによって,共感(批判)たり,享受する読みの態度が生まれてくる。
「飛びこめ」 (光村・4年)
−主題を読みとる−
(1) 主題について
父親の船長が絶対絶命の窮地に立たされて,鉄ぽうでおどして,むすこの少年を海へ飛びこませる場面だけをとらえるか,あるいは,むすこが無事に救いあげられたのを見て,自分の船室へかけこんで,声を殺して泣く場面をも相関的にとらえるかによっても,作品の主題は異なる。前者の場合は,作品の主題の内容を,父親としての船長の決断と勇気のすばらしさに求めるであろう。後者の場合は,男らしいきびしさとからみ合った,温かい愛情にまで広げてとらえることになる。ここでは,泣いているところを人に見られないように,自分の船室へかけこんだ船長の父親としての心情まで読み味わようにしたい。
(2) 学習課題について
この教材を通読したとき,児童は次のような問題をとらえるものと予想される。
- さるは,どうして少年のぼうしを引ったくって,マストへよじ登ったのだろう。
- 少年は,ぼうしを取られただけで,どうして危険なマストにはい登って,さるを追いかけたのだろう。
- 船の人々は,どうして助けようともしないで,さると少年の追っかけごっこをながめていたのだろう。
- 少年の父親である船長は,どうして自分のむすこに鉄ぽうを向けたのだろう。
これらをもとに,主題に迫るための学習課題を次のように設定する。