福島県教育センター所報ふくしま No.14(S49/1974.1) -005/022page
算数科における関数教材の比較調査
―現代の教科書と緑表紙教科書を中心として―
第1研修部 戸 田 満 夫
1.はじめに
関数が「二つの集合の要素における一意対応である」と現代的な意味を含んで定義され,それから集合の考え,順序の考え,変数の考え,対応の考えなど四つの考え方の育成が関数概念を形成する上で特に重要な要素であるという観点がうちだされたため,現在の教科書はそれら四つの要素を関連させ,児童の発達段階に適応した教材として構成している。ところで昭和10年に発行された,緑表紙「小学算術」では関数教材をどのような形でとりあげ,何をねらいとしたのか,を調査することは,数学教育現代化のあり方の一つの背景をは握できるように思えるのである。
「小学算術」は「児童の数理思想を開発し,日常生活を数理的に正しくするように指導することに主意を置く」という目標を揚げているが,この日標を,現在の学習指導要領,算数第1目標「日常の事象を数理的にとらえ,筋道を立てて考え,統合的,発展的に考察し処理する能力と態度を育てる」と対応させたとき本質的には同じようにも思えるのである。関数教材に限れば数理思想のかん養という立場から,児童の能力を超えないことを限度としてとりあげられている。
2.関数教材の比較
「小学算術」の中から関数教材の代表的なものをとりあげ現在の教科書との比較をしてみよう。
小学算術第四学年下【速サ】
〔速サ〕
長サー米ノヒモニオモリヲツケテ,釘ニツルシナサイ。
オモリヲ一方二引寄セテ放スト,オモリノ、左右ニイツタリモドツタリスルデセウ。
一分間ニ,オモリガ(イ)ノ所ヲ通ル回敷ヲ数へテゴランナサイ。
「一分」ノ六十分ノーヲ「一秒」トイツテ,短イ時間ヲハカル単位トシマス。(1) 大石君ハ古米ヲ十入秒デ走リマシタ。小川君ノ、十九秒デ走リマシタ。ドチラガ速ク走ツタデセウ。
(2) 一分間二三百入十米走ル人ト,一分間二四百三十米走ル人トハ,ドチラガ速イデセウ。
(3) 十粁ヲニ時間二行ク人ト,十二粁ヲ三時間二行ク人トハ,ドチラガ速イデセウ。速サハ単位ノ時間二行ク距離デハカリマス。
速度については,振子のふれる回数と時間の関係をとりあげ1秒の単位導入をおこない,ついで
○一定距離を走るA,B二人の速度の比較。
○一定時間内に走るA,B二人の速度の比較。
○時間と距離の関係から速度の考察。などについて問題解決をはかっている。これらは,五年に発展し,「比例卜反比例」の教材で,
距離=速サ×時間
の公式を導きださせ,さらに,S=V・Tより,V=S/T,T=S/V,など関連する公式を導かせるため問題も設定されている。
第四学年から速度についてとりあげ,時間と距離の関数として系統的に学習させようとする配慮がみられることは,現在の指導要領でねらう基礎的概念や原理の理解と,それに基づく数学的な考え方の育成と照らしあわせ本質的にはあまり変わらないように思えるがどうだうか。
現在の教科書では速度に関する学習内容が第5学年からとりあげられている。
5年下,速さ (新訂新しい算数,東書より)
適さのくらべかた
\ きょり(m)
時間(秒)
A 100
20
B 100
18
C 80
18
1 右の表は,A,B,Cの3人が走ったきょりと時間を表わしたものです。
この表から,3人の速さをくらべてみましょう。〔AとB〕
AとBは,走ったきょりが同じです。★このようなときは,どちらが速いことになるでしょか。
速さの計算
2 速さは,時間と道のりによってきまります。
速さは,次の公式によって計算します。速さ=道のり÷時間