福島県教育センター所報ふくしま No.15(S49/1974.3) -004/030page

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識や経験を結びつけて資料をみるカ,さらには提示された資料の中に,それだけでは解決できないことが含まれていることを見ぬくカがどうしても必要である。

このような能力がある程度育てられていないことには,この段階での資料活用は不可能であり,また効果があまり期待できないということはまずもってふまえなけれならない。

このように,課題をとらえるための資料の性格としては,資料の内容が補説がなくても理解しやすく,子どもの意識に矛盾を感じさせるものであることが,適切な資料としての条件といえるだろう。

(2)予想をたて仮説にたかめるための資料

この段階での資料活用にあたっては,すでに設定された学習課題を分析的に追究してみて,ある視点にたって見通し(仮説にたかめる)をたてるためになされるものである。

この段階で要求される資料活用能力としては,子どもたちが,既有の生活,学習経験を想起し,これと提示された資料とを関連づけて,無限に思いを馳せる幅広い想像力,あるいは鋭い直観力が要求されなければならない。豊かな経験と確かな資料をもとに,いろいろな角度からの仮説をたかめ得る力を育てることが,社会的認識や態度を育てるうえで極めてたいせつな要求である。人の気づかない新しいものの発見や創造は,いかに数多くの仮説を設定し得るかにかかっているといわれる。

(3)確かめるための資料

この段階では,子どもたちの予想(仮説)を確かめるために必要な資料を選択し,検討する能力を養うことが必要である。したがって,資料活用にあたっては,前段階までの資料の活用とはちがって,むしろ自分の既有経験や知識にとらわれないで,資料を読みとらせることが必要であろう。厳密には,自分のすべてをすてさって,資料に接するということは不可能であるとしても,できるだけそのような態度で資料と対決させる指導が必要である。換言すれば,ある種の先入観をもってしてはならないということである。

特にこの段階では,ある種の先入観から勝手な資料の読みとりをしたために,結果的には誤った解釈やイメージ化にとどまったりすることのないように留意すべきである。したがって,資料に対する反応の速さのみを高く評価することは,望ましい資料活用能力であると判断することはできない。じっくりと微視的に資料を読みとり,諸資料間の関連をたんねんにはかりながら,自分たちのたてた仮説を検証させていくことは特にだいじな能力育成の観点である。

5.結 び

以上社会科の発見学習を効果的に進めるための資料の価値と位置づけについて述べてきたが,これらを要約するとつぎの点に留意したいものである。

(1)中・高学年で,時間がゆるし,内容や所在が明確な場合,資料の収集活動は,できるだけ子どもの主体性にまかせるようにしむけたい。

(2)高学年の検証段階では,資料を駆使して討論活動をとり入れることにより,発見的思考を深めたい。

(3)仮説にたかめる段階では,特に誘導すべき点で思考が空転しないように,教材への切りこみ口を限定し,典型資料も用意するなど,教師の綿密な配慮がほしい。

(4)中学年においては,教材や資料が子どもの心底にひびくものかどうかがカギであることに留意したい。

(5)資料は,学習過程の各段階に応じて,それぞれに価値の高いものを的確に位置づけることがたいせつである。

(6)子どもの関心や興味をひく資料であるかどうかは,学年を問わず重要であるが,特に間接的に思考場面の多い時間認識を軸にした学習の場合は,資料のおもしろさで学習の深まり方がたいへんちがってくる。

最後に,これらのことをふまえた「指導計画」を提示して,この稿をしめくくりたい。

 指 導 計 画 

工業地帯のあゆみ(5年)

<過程・時間> <学習活動と内容> <おもな資料>
課題をとらえる
(1時)
1. 北九州工業地帯の生産高ののびかたと、日本全体の工業の生産高ののびかたを比べてみる。 ○日本の工業生産高推移グラフ 
○北九州の工業生産割合の順位
予想をたてる
(0.5時)   
化説をたかめる。
(1.5時)

2. 「北九州の工業生産は、最近どうしてのびていかないのだろうか」予想する。   
 ○産業の基盤から……用地・用水・市場・動力源    
 ○歴史的経緯から……在来工業・政策など   

○北九州の地形図・展望写真      
○日本のおもな工業地域図   
○日本のおもな工業年表   
○明治初期の八幡の記事
たしかめる
(5時)
3. 明治初期の八幡を中心とした北九州を調べる。     
 ○北九州の自然的条件や社会的条件  

4. 日本の四大工業地帯の形成について調べる。  
 ○日本の重工業の中心を形成し発表した北九州  

5. 戦中・戦後の北九州工業地帯の経過を調べる。  
 ○他の地帯(地域)と比べた進展と悪条件  

6. 課題についてたしかめられたことをまとめる。
○北九州付近の明細地図  
○北九州工業地帯の年表
○四大工業地帯の形成時とその後の生産高・地域図   
○新興工業地域図・生産高統計
○戦後の石炭問題・公害例記事
発展する
(1時)
7. これからの日本工業発展について予測する。 ○工業発展の新しい事例

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