福島県教育センター所報ふくしま No.15(S49/1974.3) -016/030page
5.指導者1人当りの週担当時数等
39県の週当りの実施時数の総計は,705時間である。各県の週平均は1人当たり,18時間である。18時間を週5日制とするならば1日約4時間の担当となる。施設に巡回バスを向けたり,特殊学級でのスクーリングを行なうとしても同様に考えられる。
また,実施県39県中週30時間担当しているのは12県で,15から19時間は20県,10から14時間は6県,9時間以下は1県である。週15〜20時間が最も多い。平均は18時間である。
次に過の指導者1人当りの担当人員は平均7人である。富山の22人が最高で高知の2人が最低である。
総括すると,訪問による指導は今や各県の常態であり今後更に進むものと思われる。身分は非常勤の指導者が多いが,教育委員会等の所属で(または学校所属で)訪問と教材研究を隔日に行なうなどして充実していくものと思われる。
本県においても特殊教育の振興費として,在宅心身障害児の巡回訪問指導費総額24,166程度の予算が見込まれるものと思う。
(3) 実施上の問題点
特殊教育とは何か。福祉と医療と教育の接点をどのように考えたらよいか。重障児の訪問指導などの取扱いをめぐって,今後は教育の根本概念についても問われるだろう。
重度の障害児については福祉と教育の差はないともいう。新しい特殊教育諸学校の学習指導要領では,授業時数や日数の制約をはずし,療養中の重症児にも実情に応じ,授業時数を定めてもよいとしている。「重複障害の中で学習の困難なものは養護・訓練を主として指導を行なうことができる」し,施設の指導訓練の実態に応じその一部を学校教育とみなすようにとの報告(S47.12.中央心障協)もある。こうしたことは何でも養護訓練の解釈で処理し,安易にすぎはしないかとも案じられる。
教育サイドからのアプローチである限り,教育原理や哲学は大切にしたい。施設における治療訓練と学校教育における専門的治療訓練との間には学校教育の独自性はないではないかとの批判もある。学校教育は施設の療育とは異質である。この辺の事情から「見做し教育」もでてくるが,特殊教育といえども教育であり,保護や治療が本質ではない。質量はともかくとしても,学習指導要領を通して,人生に立ち向かう目標とそれなりのきびしさがなければならない。「人間性」を失わずということである。
また,特殊教育を名実ともにspecialなものにしてしまったむきもある。それは人間の専厳性において変りないのであり,handicapped children なのである。そのhandicapもこれまでは普通教育からの隔離型にしてしまっていた。隔離型のmeritは,障害の種別に応じ効果的教育ができるということであり,また,demeritは特定の障害者を狭い生活におしやり,社会性を欠いたことにある。これを教育期間中通すならば問題もあろう。「能力に応じ」てとは,よりいっそうの手厚い教育ということである。今後は各学校に養護訓練室を設け,特定の日時に特定の専門教師が,在宅児を集めて各学校を巡回する通級方式もとるとよい。また将来は障害児を中心に,訪問教師のあり方,ホームヘルパーのあり方,福祉サイドの巡回相談のあり方を有機的に考えて,徒らに家庭を疲れさすことはさけたい。
3.光を掲げて
恵まれぬ罪なき果実に光をくまなく運ぶ,訪問教師の努力は並大程ではない。地図をたよりに表札を見つけ,「どんな子かな」とそれは不安なことであるが,しかしそれは,真に誇り高き姿である。
年齢も障害度もちがう在宅児に,個々に応じた指導の方法と教材の今日的な虎の巻などは存在しない。技術的には,本当に訪問以外に途はないのか,養護学校が相当なのか,また訓練可能(trainable)なのか,教育可能(educable)なのかの判別が重要である。その上に,精薄児にはあそびの指導,身辺処理能力の向上,家族の中の独立などを,中度には将来の社会的自立や社会復帰の指導を,肢体不自由児には体幹四肢の治療と,最終的には介助を必要としないことなどを目的として,養護学校学習指導要領の線にそってすすめるべきであろう。そしてどの子にも1コミュニケーションの能力向上,2自立精神を養うことを確認し評価を続けていきたい。重度重複児には「準ずる教育」ができないとしても,軽度の障害児には普通教育の指導要領に近づける工夫をしていきたい。
具体的には「あいさつ,ことばのえほん,おはじき,等で算数,国語,音楽,図工等」指導し,「テレビをみながら話をする。あとかたづけの訓練」をするなどを糸口とし,1日2時間程度の中で指導をするようにし,家族にも十分理解させる必要がある。訪問日だけでなく毎日計画的に課題を行なわせるようにしたい。
苛酷な運命をこえて,内容もそれなりに向上するのを見ることができれば幸いである。今後更に光は掲げられ光はくまなく罪なき果実を照らすであろう。
注(本文中の写真は神奈川県教委による)
(参考文献)
・Samuel A Kirk:Educating Exceptional children
(特殊教育入門 サムエルAカーク,伊藤隆二訳,日本文化科学社)
・特殊教育(教育学叢書15)三木安正 第1法規
・特殊教育(季刊)1 文部省特殊教育課
・教育調査(91号)全国教育調査研究会 帝国地方行政学会
・光をくまなく 神奈川県教育委員会
・訪問による児童・生徒の指導実態調査
昭.48.4.10 文初特第249号