福島県教育センター所報ふくしま No.15(S49/1974.3) -026/030page

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最近の教育用語のなかから

MBD・MBD児について

研究・相談部  星     正

最近医学界ばかりでなく教育関係にも注目をひかれてきたものにMBD(Minimal Brain Dysfunction……微細脳障害症候群)という言葉がある。これは,今後の研究に待つ外はないが大きな問題としてなげかけられてくると思われる。

1.MBD児の特徴

MBDの子どもは,精神薄弱や脳性マヒのように障害のはっきりした子と,正常な子どもの谷間をさまよう子であるとも言われている。

MBD児の行動は,特に落ち着きがなく,動きまわる子,すなわち,多動的で,注意力が持続しなく,情緒が不安定であるという特徴をもっている。また一面これとは逆に,動きが特になく寡動的であり,注意の集中性からみて固執的な子……いわゆる「おとなしすぎる子」という見方もあるようだ。

学習面では,認知障害,読字障害,言語障害,数概念の障害など,また,微少な運動障害,不器用さ,眼と手の不共応などが特徴と言われる。

千葉県教育センター刊行の「児童・生徒の情緒にかかわる障害についての実態調査の報告」によれば,つぎのようなことが紹介されている。

てんかん・脳微細損傷症候群の症状をあらわす児童・生徒(その一部参照)

○発作的に人をつきとばしたりすることがしばしばある者(出現率 小学校0.43% 中学校0.22%

○授業中でも教室を落ちつきなく歩きまわる者(出現率 小学校0.47% 中学校0.22%

○興味のあることをしていても,じっとしていられない者(出現率 小学校0.53% 中学校0.25%

○持っていた鉛筆を落すなどふと意識がなくなることがある者(出現率 小学校0.44% 中学校0.05%)

○てんかんを起こしたことがある者(出現率 小学校0.08% 中学校0.08%)

 ・出現率は,全生徒数に対する比率である。
 ・各項目とも,てんかんを除けば,男児が女児よりも数が多いようである。
 ・各項目とも,てんかんを除けば,学年の進むにつれて該当と思われる者の数が減っているようである。

2.MBDの判断がむずかしい

MBDについては,小児科医や精神科医のほんの一部が取り上げている問題でもあり,基準はまだ明確にはつかめないのが現状であるといえる。米国においても,ごく最近のテーマとして考えられているものである。

微細脳障害症候群といわれるものは,知能はほぼ正常以上の子どもでさまざまな学習あるいは行動上の問題を有しているもののことである。そしてこのような障害は中枢神経の機能障害に由来するものと考えられている。

この機能障害は,認知,概念構成,言語,記憶および注意力,衝動あるいは,運動機能のコントロールなどの面に単独あるいは種々の組み合わせで出現するという。

これらも最近において明らかにされた概念であるために小児科医,精神科医の間においても診断には自信がまだもてないとする意見も多い。

3.最低必要な検査

東京都立築地産院の藤井氏は,検査についてつぎのような紹介をしている。

(1)神経学的検査

立位での自発運動,上肢を水平位に維持したときの逸脱行為,頸部,手指,目などの筋の運動異常などをみて年齢に応じた発達をしていない者を異常とする。

(2)閉眼持続,舌挺出,側方視野の注視,開口持続などの運動維持の持続時間を計測し得点化して異常を判定する。

(3)IQ(田中ビネー知能テスト)

(4)行動記録(Bayleyの考案したBehavior record)に記入する。検査者,母親などの他に対する反応,協力,恐怖,興奮,情緒,注意力,忍耐力など30項目をチェックして異常性を判定する。<略> なお,診断等では東大医学部小児科の鈴木氏の研究がある。

4.MBD児は救える

府中療育センター精神科医長の長畑氏は,「脳の障害が器質的なものでなく,機能的なものということは,発達しつつある子どもの脳ではその成育過程で,共に復元しうる障害である」と言っている。従って治療には,薬物療法,親へのカウンセリング,教育上の配慮,心理療法などで救えることを合わせ付記しておく。

−参 考一

・診断基準の確立していないMBD,絶望の谷間から救いうる勇気を(伊藤 裕)

・千葉県教育センター教育相談F9−01


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