福島県教育センター所報ふくしま No.17(S49/1974.9) -008/026page
中学校における岩石薄片の観察指導と工夫
第2研修部 渡 辺 専 一
1. はじめに
中学校では「 地かくの変化と地表の歴史 」の領域の最初に「 火山活動とマグマの性質 」「 マグマの活動と火成岩の特徴 」があげられている。ここでは,火成岩の特徴を調べることに始まり,発展して火成岩生成のメカニズムを推論することをねらいとしている。
すべての理科学習過程について言えることであるが,ある事象の変化について思考を進める場合,できるだけ正確な,しかも多量のデータ(目的に合致した)を集めることがその基本となる。
ここでは,現在まで極めて重要視されながら手薄になっていた岩石薄片の観察指導の手がかりについて,いろいろの角度から論じ,参考に供したい。
2.岩石標本・薄片の選定について
岩石の指導では標本の選定という点で特に留意しなければならない。それは岩石には同種のものをとりあげてもきわめて多様性がある。即ち非常に地域性に富んだ変化があることである。ややもすると実験や観察をした結果,特殊な岩石であるために指導のねらいをはずれてしまう場合が考えられる。確かに生徒達にとっては地域の岩石の問題を扱うことは興味のあることであり,重要なことではあるが,やはり基本となる岩石(すなわち,その岩石特有の性質が明瞭に出ているもの)の比較観察が重要である。その後において地域の岩石なり,多少変化のある岩石に発展させ,基本となる岩石のどの特徴が類似するかで関連づけ,学習を深める必要がある。
この様な意味から標本の選定には,充分な配慮が必要であろう。
3.薄片観察指導のための光学機器
標準的(その岩種特有の性質を持つ)な岩石をもちいて,肉眼的にまず観察させることは学習の手順であるが,今回は,その次の段階である光学機器をもちいての指導について問題となる点,留意すべき点に触れてみたい。
(1)偏光拡大鏡について中学校の理振規格として偏光拡大鏡がいれられ,各学校においてすでに使用されているものと思われるが, 岩石の観察, および 鉱物の組成 を観察するためには,充分目的を達成することができる。しかも偏光顕微鏡にくらべて安価であるため,多くの台数が備えられ,多数の生徒を学習に参加させることができる点,大いに効果がある。
偏光拡大鏡には,第1図aに示したような反射鏡つきのものと第1図bに示したような反射鏡なしのものがある。反射鏡なしのものは安価で容易にもちいられる点便利である。また,反射鏡つきのものには,直立型と傾斜型があるが,利用にはいずれでも支障はない(顕微鏡ほど高さがないので問題はない)。なお,偏光拡大鏡の構造は,第2図に示したように,2枚の偏光板の間に薄片をはさみ込みレンズで拡大視する様になっているものでそれ以外には特別に変ったものはない。
即ち,下方の偏光板(偏光器)は,いろいろの方向に振動して進んでくる光を一定方向に振動する光だけを通すものであり,上の偏光板(検光器)も機能的には同様である。であるから上下2枚の偏光板がそれぞれ十字に交わるようになれば光はまったく透過しない。しかしながらその間に複屈折体(光学的異方体・多くの鉱物にはこれに属するものが多い)をおくと,下方偏光板で作られた偏光が複屈体によって2つの光波に分かれ,それぞれが十字に直交した上方偏光板で合成されて光の強弱,すなわち明暗となって見えるというのがその原理で生物顕徹鏡と異なる点である。そのため薄片中の鉱物の輪郭が明瞭に見え,鉱物が区別でき,全体の組織がわかるようになる。