福島県教育センター所報ふくしま No.18(S49/1974.11) -006/025page
工作・工芸は前にのぺたように、材料で表現条件が一応決定される。したがって材料の機能を知ることなくしては、教材の選定もなしえないといえる。材料にはいくつかの機能があるが代表的なものをあげてみたい。
1. 抗圧カ・・・おしっぶしにくい 石、鉄、木 2. 抗勇カ・・・切りにくい 石、鉄 3. 展性・・・ひろがりやすい 金属 4. 延性・・・のばしやすい ゴム、針金 5. 弾性・・・はねかえる力 ばね、竹 6. 不燃性・・・もえにくい 金属、石 7. 化学的抵抗力・・・耐酸性、耐アルカリ性 プラスチック 以上材料について形状、性質と心理効果、機能の三つの面から概説して来たが、これらの考え方は、既往のもので、これをそのまま容認しては、発想の転換もなされず、したがって教材化にも新鮮さを求めることはできない。常に材料を熟視しながら別な考え方を導き出すように努力しなければならない。このことについて、のちに例をあげて説明してみたい。
4.工作・工芸における技術について
工作・工芸は常に何らかの材料を媒介物とした造形的表現活動である。材料があってアイデアが決定されることもあり、又先にアイデアが決定されこれに適当した材料が選定されることもある。もちろんこれらの決定には前にのべた材料の心理性、機能性等が条件としてとらえられなければならない。上述の材料にはそれぞれに処理上(加工上)の抵抗がっきものである。材料の造形上の表現抵抗には二つの種類が考えられる。
(1) 内部抵抗
芸術制作抵抗ともいうべきもので、例えば彫塑で要求される量感、質感、肉付等は粘土や石こうを材料とした場合に大きく浮かびあがってくるものである。
(2) 外部抵抗
材料抵抗ともいわれている。粘土や紙にくらべて、木材や金属には加工上この外部抵抗が大きく作用してくる。
工作・工芸の造形活動ではこれらの材料のもつ外部抵抗をいかに考慮して児童・生徒に最少限にして与えるかが教材選定上の大きな一つのポイントになると思う。人間の生存のよろこびの一つに、各種の抵抗をのり越える意欲と、それをなし得た感動があげられる。工作・工芸教育においても、抵抗のないものには興味も意欲も期待できない。発達段階に応じた材料処理の技術を体得させることにより、材料抵抗にうち勝って、新しい機能と美の創造がなしとげられるものと思う。5.工作・工芸の教材化について
工作・工芸における材料ならびに技術について以上のようにとらえ、従来の工作・工芸教育で用いられて来た材料の活用法や、表現のための技術のあり方について、新たな発想のもとに児童・生徒にとり入れられやすい方向での教材化の例についてのべてみたい。
(1) 面材(板材)を塊材に転換する
工作や工芸でペン皿などを製作する場合、カツラやホオの塊材を彫り込ませて作らせる方法がとられている。この方法は一見平易に思われるが、一定の面積を平滑に彫りとることが要求され、現在の学校備品の内容や、生徒個人持ちの工具などでは、外部抵抗が極めて大きすぎる。
この教材は要は一定の深さをもつ皿を造形することであって、彫り下げる代りに高い所を積み上げさせて見てはどうだろうか。工作の技法で大きな面を彫りとることと、小さな材料を積み上げることでは、問題にならない程後者が平易である。造形上要求される技法も高度なことを要せず、用いられる工具も、のみの代りに木工ヤスリなどを主要工具とするので、危険も少くてすみ、製作に要する時間も大幅に縮少される。
上の写真は6mm厚のベニヤ板の積層による容器である。薄い板を何枚も積み重ねることにより、一見塊材を用いなければできそうにもないデザインを満足させたものである。面材→塊材への発想の転換である。次に写真により製作過程を示す。まずデザインにより4〜7mmづつ小さくした相似形をつくり、糸ミシン機で必要枚数を切り抜く。白ボンドを接着する両面に塗り重しをのせて一昼夜おく。乾燥後内部を木工ヤスリや成形切削具(サーフォーム)紙ヤスリなどで成形する。内部の成形完了後に底板を接着し、乾燥後外部を成形する。