福島県教育センター所報ふくしま No.18(S49/1974.11) -008/025page
中学校教材 格技(柔道)の初歩的段階の指導について
第1研修部 鈴木 敬介
はじめに
中学校における格技の学習では、剣道、柔道、すもうのいずれかを選択することになる。小学校段階では、格技教材としては、すもうを取り上げているだけなので、他の運動種目と異なり対人的な技能を中心に行われる運動は、学習者にとっては新しい経験になる。
学習指導要領に示されている格技の年間における時間配当率は、中学校では、全体の10〜20%、高校では、選択必修になっており、男子は、剣道、柔道のうちから1種目を選択し(第1選択15〜20%)さらに男女いずれの場合でも、自由選択(10〜15%)ができるようになっている。この場合、剣道、柔道だけでなく、すもう、レスリングなども含まれる。したがって、中学校から高校までの格技の時間は、かなりの時数になる。中学校の体育指導において、指導上多くの問題をもっているのは格技である。それは指導者が不足していることと、施設がじゅうぶんでないことにもよるが、基本的には格技の特性や指導内容に関する研究、特に教材研究の不足があげられるであろう。
知的教科とちがい健康や体力をもととした身体活動を手がかりとする体育では、個々の生徒の身体的特質や発達の個人差、運動適性等を理解した上で指導が行われるべきであろう。指導内容については、「初歩的段階」「進んだ段階」「さらに進んだ段階」の進歩の度合に応じて考えられなければならないので、それだけに生徒の発達や技能の進歩を評価し、適切な指導ができるように綿密な計画を立てるような配慮が必要である。ことに柔道は技能構造、練習、試合の方法などの面から身体接触が多い。しかも運動量が大きく、その上はげしい全身運動を必要とするため、事故発生率も高いことが予想されるので、じゅうぶんな防止策がたてられていなければならない。これらを含めて柔道の基本動作の指導について述べてみたい。1. 格技(柔道)の内容、特性
格技(柔道)は個人対個人の技能を競うスポーツであり、常に相手との関係における攻・防の技能を中心とした個人的種目である。これを他のスポーツ教材にみられる個人技能と比較してみると、技能の全体的構造から、その技能の位置づけが異なる。また、マナーを重視するとともに、安全のための技能とルールが発達段階に応じて考慮されなければならない。中学校では、しめわざ、関節わざ、背負い投げわざは禁止され、安全のための受け身を重要な内容として、個々の技能から、連続技能へと発展させていくことになる。そのためには個々の技能や連続的技能の段階的なおさえ方や、禁じわざ、ルールなど、経験、体力、知識などを考慮し、発達に応じた技能として、その内容を規定していかなくてはならない。柔道の技能を構造的にとらえるならば下表のように考えられるが、体力や技能に応じて練習できるように生徒の発達段階を考慮し、学年別に学習の順序が明らかにされるように構成されなければならない。
2. 学習過程
格技の学習過程は、技能とルールを中心として考えられなければならない。学習活動では、マナーや安全にっいて特に注意しなければならない。技能の内容は、生徒の発達、体力、能力、経験などによって多少異なるが、基本的には生徒の格技に対する欲求をどのように生かしながら学習過程に位置づけてやるかということになる。
そのためには、基本動作をじゅうぶんに身につけ、攻・防の技能を個々の技能、連続技能、応用技能と発展させ、相手との問合いを見ながら好機を逸することなく、攻・防ができるようにすることが必要である。技能を身につけるためには、技能の知的理解をふまえた段階練習がより効果的である。その段階練習では、たとえば、基本練習一約束練習一自由練習一試合という組み立てをくり返して行わせるという観点から考えると、次の