福島県教育センター所報ふくしま No.18(S49/1974.11) -015/025page
るので面積測定が繁雑で精度が落ちることである。このために膜の厚さの測定値が非常に悪くなっている。面積測定による誤差を是正すればよい。その対策として一定面積のところに何滴滴下すれば単分子膜の形成が終わるかという実験に改良すれば面積測定の問題は解決し、実験値の精度は上がり、時間も短縮できる。
方法
- (1)
- 2500倍にうすめたオレイン酸のベンゼン溶液をつくる。
オレイン酸をメスシリンダーではかり取る時、シリンダー内壁に付着しないようにする。- (2)
- (1)でつくった溶液を毛細管(スポイト状にしてゴムキャップをつける)で吸い上げ、1滴の体積を測定する。毛細管の先端の太さは140〜160滴で1cm 3 になる位が適当である。太いと1滴の体積が多くなり誤差の原因となる。
- (3)
- シャーレの直径(約12cm位のもの)を正しく測定し、水を8割位入れて静置する。
- (4)
- (1)の溶液を毛細管を用いて、水の入ったシャーレに1滴ずつ落とす。溶媒のベンゼンが蒸発し去ると、滴は水面上から消えるのでさらに1滴落とす。ベンゼン溶液が水面にレンズ状に残り、しばらくの間(30〜60秒間位)消えなかったならオレイン酸分子が水面全体をおおったことを示す。それまでに滴下した滴数を記録する。但し、レンズ状に残った最後の1滴は滴下数から除く。
結果の1例 1cm 3 になった溶液の滴下数 A滴 シャーレに滴下した溶液の滴下数 B滴 シャーレの半経 rcm 単分子膜の厚さ(オレイン酸分子の長さ)
l=B/2500×A×πr 2lcm
1cm3 の滴下数 (滴) 125
125 105 157 シャーレの直径 (cm) 11.6 12.5 11.6 12.4 シャーレへの滴下数 (滴) 3.5 3.5 3.5 5 分子の長さ ×10-8cm 11.6 9.13 12.6 10.5
オレイン酸分子の長さの理論値11.2×10-vcm従来の方法にくらべて次の点ですぐれている。
- (1)
- 高価なリコボジウムなどを使わないで身近かな器具で簡単にできる
- (2)
- 面積測定が簡単でしかも正確なので精度が高い
- (3)
- 終点がはっきりしている
- (4)
- 実験時間が非常に短縮され、1時問の授業時間で数回の測定値を求められる
実験上の留意点
- (1)
- 実験を繰返えす時は、クレンザーでシャーレをよく洗い、その後よくクレンザーを除いて油などついていないようにする。
- (2)
- 油滴は同じところに滴下するようにする。また、余り高くから落とさない。
- (3)
- 油滴の入ったスポイトを保持する時はシャーレから遠ざけておくようにする。
- (4)
- スポイトからの滴下は常に同じ状態にスポイトを保持して滴下するようにする。
オレイン酸分子について
オレイン酸は下の化学式で示されるように、親水基であるカルボキシル基(-C00H)と親油基(疎水基)の炭化水素の部分(C17H33)の二つの部分に分けることができる。
水面上に滴下すると図のように、親水基は水の中に入り、親油基の部分を上にむけて分子が水面上に立って、1分子層をつくって配列している。
原子、分子のモデル形成、さらにここには述べなかったがイオンモデルの形成は、化学的領域におけるモデル学習で非常に大切な分野である。この教材の展開に適した実験は何か、また、その実験から何を得させようとするのか常に考え、実験の工夫改良を心がけ、生徒の学習発達に即して、帰納的にモデル化する学習にもっていくようにしたい。