福島県教育センター所報ふくしま No.19(S50/1975.1) -005/026page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

高等学校教材

「日本の音楽」の指導について

第1研修部  古関 斉

はじめに

高等学校の学習指導要領が改訂されて2年目になるが,音楽学習の中で一番遅れをとっている領域は,「日本の音楽」(この場合伝統音楽にしぼって)の指導ではないだろうか。昨年の11月7・8日に開催された全日音研高等学校部会全国大会(浦和市)でも,「日本の音楽」の研究授業や分科会,シンポジュームも開かれ,多くの参会者があったが,実際には日本の音楽を教育の場に取り上げて指導している先生は,参会者(約80名)の一割にも満たない寂しさであった。それだけに日本の音楽の指導をどうしなければならないか,という先生方の真剣な姿を見ることができた半面,まだまだ日本の音楽の教育的研究の遅れを痛感した。

学習指導要領(音楽I)の目標(2)に「わが国および諸外国のすぐれた音楽に広く親しませる―。」,(4)には「わが国および諸外国の音楽の動向を概観させるとともに―」と明記されているが,どれだけ日本の伝統音楽が教育の場に取り上げられ,指導されているか,前述のことからも疑問である。

日本の音楽の教材化についてはすでに小・中学校で共通教材という形で実施されているが,日本音楽全体からみた指導内容や教材化は確立していないし,教師のこれまでの教育や経験による指導意欲にも関係して,日本の音楽が敬遠されているように思われる。

自国の伝統音楽を教育の場に乗せ,自国のすぐれた文化に接し,さらに新しい音楽文化の創造へと教育活動を発展させることは,教育の重要な使命であり,世界的動向である。

「日本の音楽」(特に伝統音楽)について,教育的意義を明確にし,指導内容や指導上の留意点について述べてみる。

1. 「日本の音楽」の教育的意義

前述の学習指導要領の目標(2,4)の背景には次の三つの教育的理念があり,日本の音楽もこれを基本として教育の場に乗せられるものである。

(1) 「豊かな音楽的感受性の育成」

これまでの音楽教育は,ヨーロッパの一国一時代の音楽を中心にきわめて狭い範囲の音楽を学習対象としてきた。現代のような多様な情報杜会において,限られた一地方一時代の音楽では,豊かな音楽的感受性は生まれてこない。洋の東西,時代の新旧を問わない広い視野からの音楽を教育の場に乗せることである。

(2) 「音楽文化の継承」

人間の創造的な精神活動によって創造された音楽文化を教育を通して,次代に伝承することは教育の重要な使命である。

(3) 「音楽文化の創造的活動への寄与と参加」

新たな音楽文化の創造は,常に伝統的文化の上に創造される。教育においては未来の展望の上に立って,生徒たちか直接間接に音楽文化に創造的に参加し,寄与できる素地を培っておく必要がある。

2. 中学校における「日本の音楽」の教材(共通教材)

高等学校における音楽学習も中学校の基礎の上に芸術的経験の累積と発展が必要で,中学校での学習内容を知ることは,教育の一貫性からも重要なことである。

中学校の共通教材を列挙してみると

学年 曲名 作曲者 備考
1年 こきりこ節
五段砧
四季の眺め
富山県民謡
光崎検校
松浦検校
民謡
箏曲
三曲合奏
2年 斎太郎節
越天楽
小鍛冶
宮城県民謡

杵屋勝五郎
民謡
雅楽
長唄
3年 かりぼし切り歌
木遣の段
鹿の遠音
宮崎県民謡
鶴沢重次郎
不詳
民謡
義太夫節
尺八曲

44年の改訂により,上記の共通教材が指定されて,学習の場に取り上げることが義務づけられている。現場においても教材化や指導法が研究されて,かなりの学習効果が高められ定着化かはかられてきている。これらの教育を受けてきた生徒を迎える高等学校として,日本の音

楽に見向きもせず西洋音楽の学習に終始することは,まことに残念といわねばならない。


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は情報提供者及び福島県教育センターに帰属します。