福島県教育センター所報ふくしま No.19(S50/1975.1) -006/026page
3. 高等学校における「日本の音楽」の捉え方
日本の音楽の教材化や構造化をはかる視点として
(1)日本の音楽の特質を指導内容の基本とする。
伝統音楽を比較音楽学的な考えに立って,一つ一つの日本の音楽の特質を西洋音楽のそれと比較学習することである。注意することは,二つの音楽的特質を対立させてその優劣を学習するのではなく,特質の背景としての音楽観や美意識のちがいを明確にし,それぞれに高い価値のあることを享受感得させることである。
ア, 日本の音楽の要素的特質
要素的特質には次の八つが考えられる。
以上の日本の音楽の諸特質を「基礎」「表現」「鑑賞」の諸領域の学習指導の中に構造化をはかり,日本の音楽を享受できる感受性を育てることである。
イ, 日本の音楽の総体的特質
「西洋音楽が他の芸術から独立して一個の芸術として固有の地位を,はやくから確立していったのに対して,日本の音楽にはむしろその逆の傾向があり,他の芸術に結びつき,総合芸術の中において独自の存在価値を示そうとしてきた。」(星旭: 日本人の心と邦楽より)これは洋楽と日本の音楽の大きな相違点であり,特質である。実際の指導にあたってこのことを十分認識していないと,西洋音楽の指導と同じような扱いでは,日本の音楽は十分理解(わかる)されない場合が多い。日本の音楽には,他の芸術(演劇,舞踊など)と結びついているものが多く,純粋に聴くための音楽よりも,見るため,なにかのための音楽が多い。いいかえれば日本の音楽には視覚的要素が多く,純粋な音楽独自の作品は少ない。このことは指導上十二分に留意して,視聴覚機器等の活用によって日本の音楽をより身近かに親しませる工夫が必要である。
(2〕日本の音楽を歴史的流れの中で日本人の心と音楽の特質を知る学習
過去の伝統音楽が,どのようにして創造され,その時代の人々にどんな性格や役割をもっていたか,どのような社会や個人によって享受され,さらには次の文化を創造する上にどのような働きがあったか,音楽の歴吏を通して変遷,発達を総合的に学習することは,日本人の心と日本の音楽の特質をより深く理解するとともに,未来への日本の音楽文化の創造にもたしかな素地を培うものである。
幸い高等学校では,国語,社会(日本史,倫理・社会)の教科で日本の音楽と係わりある事項を多く学習しているので,それらと関連を密にし,側面からも日本の音楽を理解できる創意が必要である。
各種の日本の音楽の発生,発達とその社会背景を簡単にまとめてみると,
日本の音楽を教育的見地から音楽の学習に取り入れられる最古のものは,古代後期の雅楽からで,それ以後現代まで13世紀におよぶ歴史的流れのなかで,どのようにして文化の創造的活動がなされ,どのような杜会で授受されて発達,変遷したか,永い間に培われてきた日本人の心と特性,それらの歴史的背景を音楽を通して学び理解することが,日本の音楽学習の縦糸であり,そこに日本の音楽の特質の横糸を系統的,有機的に織り成していくことが本学習の要点である。そのためには教材の精選と構造化をはかり,日本の音楽がごく自然に身近かなものとして学習できる配慮が必要である。