福島県教育センター所報ふくしま No.19(S50/1975.1) -009/026page
時間の短縮
短時間で反応を終了させるためには,アルミニウムの量をできるだけ少なくし,高濃度の塩酸を用い,比較的高温で反応させればよいように考えられるが,実際には塩酸の濃度が高すぎると,反応時間が長くなり(表1)また,アルミニウム管の長さも,あまり長くない範囲内では反応に要する時間はほとんど変わらない(表2)。
表1 塩酸の濃度ととける速さの1例
※ 液温―18℃ アルミニウム管の長さ―1cm
塩酸10cm 3
に加える
水の量cm 30 2.5 5.0 7.5 10.0 12.5 15.0 時間 29′05″ 4′05″ 5′00″ 5′55″ 7′10″ 9′00″ 14′15″
表2 アルミニウム管の長さととける速さの1例
※ 塩酸の濃度―濃塩酸の1/2,液温―19℃
長さ(cm) 0.25 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 時間 7′10″ 7′15″ 7′15″ 7′36″ 7′53″ 7′57″ したがって,1単位時間内に,実験の準備とまとめの時間を考えに入れた場合,塩酸の濃度とアルミニウム管の長さは,先に示した程度のものが適当であろう。もちろん,濃度の段階の設定は,反応時の温度によって変わってくるが,いずれにしても反応終了まで20分以上もかかるような計画は意欲の持続の面からも避けたいものである。
アルミニウムはクッキングホイールを利用することもできるが,変形しやすく,試験管の壁に付着したりして,こどもには扱いにくく,また,反応時間も,それほど短縮されるわけでもないようである。
条件の統一
この実験では,条件を統一することの必要性に気づき,さらに,変化に関係する条件を見つけ,それを考慮に入れて実験を計画させることが大切である。濃度ととける速さの関係を調べる場合には,塩酸やアルミニウムの量,温度,水溶液のかくはんの程度などがあげられよう。ところが,塩酸やアルミニウムの量は比較的制御することは簡単であり,しかも,この程度の実験では,反応時間に影響を与えることが少ないのに対して,温度は,その影響が大きいにもかかわらず,反応の進行とともに発熱を伴うため,これを厳密に制御することは,かなり困難である。恒温槽とまではいかなくても,大きなビーカーに入れた水の中に全部の試験管を浸して,反応によって発生する熱をある程度吸収させ,温度をそろえることが必要であろう。むしろ,ここでは,十分な条件統一はできなくとも,実験1から,こうした条件の変化に気づきこれをできるだげ少なくする方法を考えることが大切であろう。
実験3では,室温における塩酸の温度を基準にして,10度ごとに液温を設定するわけであるが,正確に10度刻みである必要はなく,およそ10度刻みの水温の水の入ったビーカーを用意し,データをグラフ化する段階で,グラフのがい当する部分にプロットしていけばよいわけであるが,往々にして,正確に水温を調節しようとして時間を空費していることが多い。また,ここでも,反応の開始から終了まで同じ温度に保つことは,この程度の実験では技術的に困難なので,反応開始時の温度をもって反応時の温度を代表させるのが便利であろう。ただし,この場合の温度は,あくまでも反応物質(ここでは塩酸)の温度なので,ビーカーの水温と試験管内の塩酸の温度を等しくしておかなけれぱならない。この操作も時間のかかる仕事であるが,工夫しだいで短時間にすませることもできよう。季節によっては,試験管内の塩酸を直接,設定した温度まで暖めて,そのまま反応させることもできる。
2. イオンモデルの形成 (中学校・3年)
電解質の水溶液に電流を流したときの電極の変化を観察することによって,帯電粒子の存在を予測し,それをモデル化させるための実験である。ここでは,塩化第二銅の電気分解によって生じる両極板の質量変化を測定する実験について述べてみたい。
この実験では,電気分解中に塩化第二鋼の水溶液が変質し電流が不安定になること,両極の質量変化が一定しないこと,負極に析出した銅が極板からはく離して,測定しにくいことなどの問題があげられる。これらの問題の多くは,塩化第二銅水溶液中のC1 − の影響といわれており,この実験の材料として,塩化第二鍋の適否が問題になるわけである。代わりに硫酸銅を用いればよいデータが得られるが,負イオンが理解困難なSO 4 2− であること,塩化第二銅のように簡単に合成して見せることができないことなどから,塩化第二銅に一歩を譲るようである。
実験例
主な準備物:塩化第二銅,銅網,電源装置,電流計,上ざらてんびん,ビーカー,メチルアルコール,温風乾燥器 実験 〔電解質水溶液中の帯電粒子の存在に気づき,これをモデル化するための情報を収集する〕
[1] 10%の塩化第二銅水溶液を500cm 3 つくる。
・濃塩酸1cm 3 を加えて塩酸酸性にしておく。
[2] 銅網を5cm×8cmの大きさに切ったものを2枚用意し,それぞれの質量を測定する。
[3] この銅網を両極として,約1Aの電流を流し5分ごとにそれぞれの質量を測定して,結果をグラフ化する。
・極板の銅網をよく乾燥させてひょう量する。 電気分解中に塩化第二銅の水溶液が変質したり,流れる電流が不安定になる現象は,長時間電気分解を続けた場合に起こるので(図1),できるだけ短時間に実験が終