福島県教育センター所報ふくしま No.19(S50/1975.1) -010/026page
了するように計画することか必要である。しかし,短時間の電気分解では,極板の質量の変化が少なく,測定した場合の誤差が大きくなる。そこで,電流を大きくして極板の質量の変化を増してやるため,極板の大きさをできるだけ大きくしたり,両極間の距離を調節することになるが,流れる電流が大きすぎると,負極に析出した銅が,極板からはく離して測定が不能になるので注意が必要である。なお,塩化第二銅の水溶液はできるだけ新しいものを用い,また,水溶液の変質をおさえるために,濃塩酸を少量加えておく。図1で,正極の質量の減少量が,負極の増加量を常にうわまわっているのは,濃塩酸の添加によるものと思われるが,あとで,その原因を追求させることによって,イオンモデルの深化をはかることもできよう。この実験では,極板の乾燥に時間がかかるが,アルコールに浸したのち,温風乾燥器を用いると短時間にすませることができる。
この実験の結果から,塩化第二銅の水溶液中を流れる電流は,金属の場合と異なり,電子の移動ではなく,帯電し、質量をもった粒子の移動であることを推論し,イオンモデルを形成させるわけであるが,そのイオンが,水溶液に電流を流した場合だけ生じるのか,電流を流さないときでも水溶液中に存在するのかについては,何の情報も得られないことは注意しなければならない。この結論はイオン化傾向の学習までもち越すことになろう。
3. よいデータを行るために
実験は,だれが,いつ,どこで行っても,条件が同じであるならば,同じ結果が得られるはずである。ただ,実験の種類によって,かかわる条件が少なく,その許容範囲の広いものと,関係する条件か多く,しかも許容範囲が狭いものとがあり,前者は比較的簡単に希望するデータが得られるのに対して,後者は,なかなか希望するデータが得られないわけである。特に最初に述べたように,定性的な実験から定量的な実験に移行することによって,その条件が著しく厳密さを要求されてくる。ここにとり上げた2例や,小学校での中和,中学校で化学変化の規則性を導く一連の実験なども,その代表的な例である。つぎに,よいデータを得るための検討の視点の主なものをまとめてみよう。
条件を残らず吟味する
その実験の結果に影響を与えると思われる条件をすべて洗い出し,吟味してみることである。特にかくれた条件は見落としやすい。「金属のとけるはやさ」を例にとれば,塩酸の濃度,温度,アルミニウム管の大きさ等,一見,まったく同じ条件で実験しても,とける速さに,明らかな差かでてくることがある。この場合,アルミニウム管の表面の状態を考えてみよう。実験前にアルミニウム管をこどもたちが手でもてあそんで表面が汚れたとしたら,それがとける速さに影響を与えることもあろうし,切り口の新旧によっても差がでてくることも考えられる。また,濃塩酸を水で薄めていろいろな濃度の水溶液をつくった直後ほ,その温度はみな違っているはずである。うっかり見逃すことが多いのではなかろうか。
純粋な材料を用いる
先の例では,アルミニウム管の表面をみがいて汚れを落とすことで解決することができよう。水を使う実験の場合,水道水などは,その中に,いろいろな物質を溶解していることを考えなければならない。また,薬品の純度が問題になる場合もあるが,目的に応じて,純度を検討して用いたり,薬品の純度を保つためのとリ扱い方を心がけることも必要である。もちろん,前の実験で使った薬品等が付着して残っているような器具の使用は絶対に避け,特に,目に見えない汚れにも注意したい。
条件を正しく守る
当然のことであるが,これが案外軽視されていることが多い。薬品の濃度や量などは,難しい実験ほど正確に守らなければならない。ちょっとした手ぬきが失敗につながる例は割合に多いようである。
その外,よいデータが得られない原因として,こどもの発達段階からみて技術的に無理と思われるもの,測定器の精度が劣るためデータに大きなばらつきがでるもの,また実験材料に問題があると思われるものなどが考えられる。いずれの場合も,実験の方法や材料を検討して改善していけることが多い。
最後に,実験を進めていって,理論値(または文献値)と異なるデータがでた揚合の扱い方について簡単に触れておく。これは,実験の種類によって,2つに分けられると思う。1つは,水を加熱していって温度変化を測定する(小4)ような場合であって,ここでは,どんなに加熱しても一定の温度以上にならないという事実を確認することが大切なのであり,100℃という文献値にこだわる必要はない。もう1つは,あまり多くはないが,例えば,閉じられた系における化学変化前後の質量の差を求める(中2)ような場合で,理論通りの値が求まらなけれぱ実験のねらいが達成されない。したがって,データを解釈した段階で理論通りの結論が得られなかった場合は,データを無視した結論を下すことは避けて,実験方法と得られたデータをよくつき合わせて解釈し,必要なときは,材料や方法を変えて,再び実験をやりなおすことになろう。