福島県教育センター所報ふくしま No.21(S50/1975.6) -002/025page

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 高校教材

      漢文教育における入門指導

         〜中学校と高等学校の接点を求めて〜

                         第1研修部 館野 勉

1. はじめに

 古文や漢文を初めて学ぶ生従のために,その.基礎的な知識について,事前に,まとめて指導する期間を,一般に入門期とよんでいる。より具体的にいえば,多くの高校古典の教科書の冒頭にみられる入門編と称する何ページかを消化する期間ということになろう。この入門編,漢文では「漢文についての概説」,「訓読の基礎」などがもりこまれている。これらの指導を欠いてよいというのではないが,その無味乾燥さが,漢文ぎらいをつくりやすいことは否めない。入門指導の本旨が,何よりもその教科への学習意欲をかきたてるものであるとすれば,無味乾燥な訓読技能にのみ傾いている入門指導について疑問を感じないわけにはいかない。

 そこで,漢文教育の入門指導のあり方を,とくに中学校の国語教育とのつながりの中にもとめてみたいと、思ったのである。

2. 網羅的入門教材とあいまいな入門指導の範囲

 現行教科書の入門編と称されているものは,ほぼ次のような内容をもっている。

 第一に,漢文学習の意義。目的・必要性を説く文章である。他教科・科目では,あまりお目にかかれないものであるが,「漢文を除外することはできない」「漢文の占める大きな意味を無視することはできない」「国語の中からなくすることは不可能である」「日本文化の発展のためにも欠くことのできない条件である」といった説得口調のものが多く,丁度,山海の珍味を前にして,その成分や料理法,食べる作法にいたるまで長談義しているようなものといえばよいであろうか。

 第二は,漢文読解のための訓読技術である。おそらく漢文の入門期指導の中心課題とすることに異論はあるまい。その内容は,(1)漢文,漢語(その起源、六書,音訓,熟語,字書など),(2)構造(語序,基本形,句法),(3)句読訓点(句読点,送りがな,返り点),(4)訓読の特殊文字(返読文字、再読文字,その他の助字),(5)書き下し文,白文,などの解説が主となっている。この中で,句読点のように,小中学校9年間の国語教育の中でくりかえされてきたものに対して,詳細な説明はどんなものであろうか。また送りがなについても,その成立事情と読み方をはなれて,送りがなを白文につける練習はでさせることは入門指導の範囲をとび出すことになりはしないだろうか。

 また,漢文の基本形にしても,1 主語ー述語,2 主語ー述語ー目的語(補語),3 主語ー述語ー目的語(補語)ー補語,4 修飾語ー被修飾語について,例文をそえて「何がどうする」「何がどんなだ」「何が何だ」といった調子で,かなり詳しく説明したり,それへの導入として,漢語・熟語の構成(1 主ー述,2 述一補,3 修一被隆,4 並列,5 前後連続関係,6 上下同義,7 同字を重ねたもの)まで説明したりしがちであるが,入門指導における構造の説明は,主として国文との語序,語順の相違を指摘して,訓読法,時に返り点の由来を述べる程度でいいのではなかろうか。返り点は,漢語,漢文の構造,構成から説明するのが自然であり,日本語としてよむために考案されたものということまででじゅうぶんであって,その種類「レ,一・二,上・中・下,甲・乙・丙,天・地・人」のすべてにわたって説明する必要はなく,せいぜい「レ,一・二,上・中・下」どまりであろう。再読文字も「未来」の「未」,「将来」の「将」で代表させれば入門としてはじゅうぶんであろう。返読文字にいたっては,否定(使,弗,非,無,莫,母、勿),使役(使,遣,教,令),受身(見,被,所,為),その他(如,若, 自,従,由,因,雖,以,所、所以,毎,与,可,為,易,難,多,少,寡,不能)など数多く,これらを漢文学習必須の知識として,あらかじめ提示することは一理あるが,実際生徒の目にする漢文には,返読の符号である返り一点がついているのであるから,入門指導でことさらとりあげなくてもよいのではなかろうか。一体,漢文に入門するものにとって必須の基礎知識とは何かということが,すでにつかみにくいのである。漢文の授業時間数の制約が意識されるあまり,はじめになんでもかんでもまとめて指導すれば,何か効果的能率的にやりおおせたような錯覚にとらわれ,教授者自身,一種の自己満足に陥ってしまうように思われるのである。

 こうしてみると,いっそのこと「詩」教材を入門指導にとりあげてみたらどうであろうか。中学校の漢文教材とのつながりから検討されてよいことだと一思う。

3. 絶句による入門指導

 中学での漢文関係の教材としては,「論語」の短章と


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